思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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薬剤効果の認識論的転回~薬剤効果の反実在論~

言語論的転回はコトバが思考を表出するのではなく、思考はコトバに規定されてしまうということを明らかにした。つまり、コトバがなければ思考も存在しないのだ。僕たちの目の前に広がる世界は、そういった意味では決して自由な仕方で存在しない。 カントの言…

薬物治療を思考する~超高齢者に対するアピキサバンの有効性・安全性検討~

[はじめに] 世間一般の処方動向をみると、高齢者に対するアピキサバンの使用は決して少なくないようである。確かに、ダビガトランなどと比べるとクレアチニンクリアランスに関する禁忌も緩い(15mL/min未満)。これは同じ抗凝固薬でも薬剤ごとに腎排泄の度…

有害アウトカム覚知の暫定性-生成と消滅のゆくえ―

[はじめに] ランダム化比較試験(RCT)は仮説検証型研究であるが、仮説を検証できるのは一次アウトカムのみである。また多くの場合で、倫理的な問題から、有害アウトカムが一次アウトカムになることはない。とはいえ、一つのランダム化比較試験で示された有…

[出版のお知らせ]エビデンスを探して読んで行動するために必要なこと

薬剤師が臨床医学に関する論文を読むという事、それは、これまで抱いていた薬物治療の世界観を大きく変えます。ものの見方、考え方に多様性が満ち満ちてくる。少なくとも僕にとってはそうでした。学生時代、いや薬剤師となってからも、理論(theory)を多く…

薬剤効果の形而上学

薬剤効果をめぐる議論は時に信念対立を招く。薬が効くというその仕方は、科学的にどのように説明しうるか、と言う問題は、どんな薬剤効果理論が真なる理論なのか、という問題を提起する。薬理学に基づく考え方、疫学に基づく考え方、おおよそ基礎薬学、臨床…

何のために健康を欲するか。

「これから正義の話をしよう」やNHKの白熱教室でおなじみ、政治哲学者マイケル サンデルの理論展開は、「公正」に関わるもの、「腐敗」にかかわるものという2の視点から功利主義やリバタリアニズムを批判する。[1]「公正」という観点からは市場選択に反映さ…

自由の探究-ジョン・スチュアート・ミル自由論-

カントに引き続き…。 syuichiao.hatenadiary.com 今回はミルの自由論を読んでみた。イギリスの功利主義者ジェレミー・ベンサムの盟友ジェームズ・ミルの息子であるジョン・スチュアート・ミル。教科書的には質的功利主義を提唱した哲学者・経済学者というイ…

【JJCLIP】知識とは情報が生み出す信念である。

僕たちはいったい何を信じ、どう行動すればいい? 知識とは情報が生み出す信念である。[1] つまり、知識は情報の更新とともに常に訂正可能性を持つ。最新のエビデンスは重要だけれども、最新のエビデンスが必ずしも正しいことを示しているわけではない。また…

自由の探究~イマヌエル・カント道徳形而上学の基礎づけ~

自由の探究。学びや臨床判断にとって自由とは何か。しばし探求することにした。今回は、マイケル サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』でも数多く引用されているカントの『道徳形而上学の基礎づけ』。カントの言う“自由”とは何か。なお引用は光文社…

ポリファーマーシー問題の再考

ポリファーマシーに関するとても重要な論文情報を知ったので、以下で概要を述べ、考察していく。 www.ncbi.nlm.nih.gov 〔introduction〕 STOPP及び START criteria は潜在的に不適切な処方の識別目安となる。Beers' criteriaよりもSTOPP criteriaの方が、PI…

ノセボ効果に垣間見る薬剤情報提供のリスク

プラセボ効果のように、薬を飲んでいるから副作用が出るかもしれないという思い込みが、薬の作用とは関係なしに身体不条理を誘発してしまうことがあるという。これをノセボ効果と呼ぶ。つまり、全く効果のない薬でも思い込みによって副作用が出てしまう効果…

医療に自由はあるか。-“正義”に潜む“犠牲”の声に耳を傾けて‐

医療における“自由”を考えている。自由とは何だろうか。これまで数々の議論が交わされたであろうこのテーマだが、医療における自由を考える機会は、そう多くないように思える。 学校には校則と言うような規則があった。集団生活を円滑に行うためにも一定の規…

かかりつけ薬剤師とは何なのか

「かかりつけ薬剤師」とは、患者が使用する医薬品について、一元的かつ、継続的な薬学管理指導を担い、医薬品、薬物治療、健康等に関する多様な相談に対応できる資質を有するとともに、地域に密着し、地域の住民から信頼される薬剤師を指す。 (日薬業発第19…

恐怖の哲学から垣間見るポリファーマシー問題

〔introduction〕 ポリファーマシー(Polypharmacy)と言う概念をうまく日本語で表すことは難しいように思う。ただ一般的には多剤併用と言われているような概念だろう。「Poly~」、つまりたくさんのファーマシーと言うわけだ。 ポリファーマシーと聞いて受…

医療における「悪」とは何か~事実と価値の2分法から垣間見る臨床判断の姿~

〔信念への懐疑と真理の追究〕 僕たちにとって十分に信頼に足るであろう信念が、積み重ねられる経験の中で極めて疑わしいものとなることは多々あるだろう。知的探求における懐疑とは、チャールズ パース[1]に言わせれば、「実際の行為の文脈のなかで、疑わし…

「死」の医療化

死にゆく過程。それは生物が生まれてから死に至るまでのすべての期間を指す。生と死。厳密にその境界線を引くことは不可能である。心肺機能が停止しても細胞レベルで言えばミトコンドリアはATPを産生しているかもしれないし、ある種のリボソームではタンパク…

セカオワと構造構成主義と病気の実在について

〔世界の終り?〕 僕は中学時代からギターを始め、高校、大学とずっと音楽をやってきた。大学卒業後はバンド活動こそしなかったものの、Logic Pro、TRITON、Macという機材群とギターで音楽を作っていた時期もあった。[1]そんな経験もあってか、音楽はジャン…

年頭所感〜“象”を追え〜

新年あけましておめでとうございます。 旧年中は、大変お世話になりました。 本年もよろしくお願い申し上げます。 今年の抱負というか、目標というほど大げさなものでもありませんが、「言語化」というのは、一つ、大きなテーマだと感じています。もちろんこ…

ドーナツとエビデンス

〔何もないという何かが存在する場所〕 ドーナツ、ドーナッツ。どちらでも良いのですが、僕はドーナッツと呼びますかね。ウィキペディアではドーナツと言う項目で掲載されているようです。[1] 僕が説明するまでもなく小麦粉に砂糖やバターなんかを混ぜた生地…

臨床疑問のゆくえ

〔事柄的存在物の解釈〕 同じ映画や同じ本を読んでも、その感想は人それぞれ異なることはむしろ普通だと思います。同じ文章や映像を見ても、その捉え方、考え方は人それぞれです。全く同じように認識されるのであれば、基本的には人間同士で争いなど起きない…

鼻声に垣間見た患者の心理

〔つまり風邪をひいたよ〕 自験例。2日前の深夜2時くらいから鼻水がツーと垂れてくる状態が発現し、昨日はずっと鼻声。夜には倦怠感が出現し、ああ、熱が出てきた…。という感じ。そして本日37度。実感できる体調のわりには低い熱?この体温計壊れてんじゃな…

もう少し自由に生きること。

〔生きる意味について〕 生きる意味について、人はあらためて考えることがある。長く険しい人生の道のりで、ふと、なぜ僕はこの世界に生きているのだろうか。そんな風に考えたことはないだろうか。 生きる意味とは、つまり生きる目的のようなもの、そう言っ…

幸せというものが僕にはよくわからないんだ。

死を迎えることは人間にとって不幸であるというような価値観がある。ごく一般的な価値観かもしれない。ただ、死ぬことが不幸なのか、幸福なことなのか、それは世間一般の価値観で測れるような尺度ではないことは確かだ。 人は他者の死から、自己の死を概念化…

理論と現象のはざまで…

中枢神経にはベンゾジアゼピンに親和性を有する部位が存在し、ベンゾジアゼピン受容体(GABAA受容体)と名付けられた。本邦でも汎用される睡眠導入剤の多くが、このベンゾジアゼピン受容体に作用する。しかし、その後ベンゾジアゼピン受容体はベンゾジアゼピ…

”カッコいい薬剤師からのラストメッセージ”

人の魅力とは何だろうか。僕は最近、そんなことを考えている。学歴、職歴、肩書…名刺にならんだその文字は、その人の歩んできた道のりを、その人の人生そのものを記述しているようにも思える。ただ、名刺に記述された肩書きなど見なくても、人の魅力は肌で感…

薬剤師のための情報リテラシー ~ICTを活用した医薬品情報業務と臨床教育への可能性~

第48回日本薬剤師会学術大会、分科会12における僕の講演、「薬剤師のための情報リテラシー~ICTを活用した医薬品情報業務と臨床教育への可能性~」のスライド原稿と当日の話に加筆訂正を加えたものです。大幅な加筆は加えていません。できる限り、当日のお話…

差異の薬学~薬のデギュスタシオン~

[差異の世界で生きる] 僕たちは差異のない世界には住めません。しかし、そのことに気が付いていない、という事は往々にしてあります。僕たちの体を構成している細胞の一つ一つ。細胞内と細胞外のイオン濃度に差異があるから、生命活動が駆動しています。そし…

薬の現象学~あとがき~

全8回にわたり、薬剤効果の考察から、薬剤効果に関する因果関係について、薬剤効果の諸原理とその世界像に対する考察を加え、後半では疾患成立の恣意性、病名付与がもたらす「力」の構造、患者固有の時間への影響を考察してきた。それを踏まえて、危機に瀕し…

薬の現象学~第8回:薬剤効果の世界像を再構築する~

これまでの思索を振り返りながら、薬が効くとはどういう事か、あらためてその問いに向かい合い、現代医療における薬剤効果の世界像を捉えなおすという仕方で、医療に対するあらたな共通認識を提唱したい。その共通認識が、有限の医療リソースを最大限有効利…

薬の現象学~第7回:病名付与と患者固有の時間~

[疾患成立の恣意性と薬剤効果の恣意性に関する示唆] 前稿で僕たちは疾患成立の恣意性を垣間見た。健康と正常の切れ目のない間を、診断基準と言うような言葉、あるいは病名が切れ目を入れ、疾患概念を立ち上げる。またその成立には多分に社会構成的要素を含…

薬の現象学~第6回:病名とは何か~

前稿で示唆されたのは、病名も一つの関心事であるという側面だ。風邪か、インフルエンザか、と言う問題で、たとえば、医師からインフルエンザだと言われたら、なんとなく、いつも以上に体がだるく、症状が重いと感じる。一方、風邪だよと言われれば、まあ、…

薬の現象学~第5回:薬剤効果の3世界像~

これまでの示唆をまとめよう。実際に薬を飲んで効果が実感できるという知覚は、薬を飲んだことが原因となって、その結果感じられる疑う動機を持てない因果関係と言えるが、その効果は科学的に妥当な因果関係、すなわちエビデンスの結果とは無関係に存在する…

薬の現象学~第4回:薬剤効果の認識原理~

前稿までにおいて、明らかとなった重要なことは、ある現象とそれに引き続いて起こった現象が、どのような状況で自明なものとして確信できるかどうかという問題であった。人は過去の経験から得られる示唆に基づき、必然性が明確に知覚できる現象の連なりを因…

薬の現象学~第3回:因果関係に関する予備知識~

前稿で僕たちは薬剤効果に対する複数の視点を得た。非常に重要な観点なので、簡単におさらいしておこう。まず一つ目は、薬剤効果は今現在においてありありと感じている身体不条理、すなわち鼻水や発熱、のどの痛みなどの知覚できる症状を緩和するための対症…

薬の現象学~第2回:薬剤効果とは何か~

「薬の現象学」本題である現象学的考察に入る前に、いくつかの準備をしておきたい。大まかなスケッチとして、薬剤効果とはそもそも何か、そして薬剤により効果がもたらされるという原因、結果の連なり、つまり薬による因果関係はどのような仕方で記述できる…

薬の現象学〜第1回:イントロダクション〜

薬が効くとはどういう事か。ある人には効いたけど、ある人には全く効かない。臨床研究の結果からはかなり有効性が期待できそうだけど、実際の臨床では期待するほどの効果が得られない。臨床研究とは、薬剤効果を一般化するために、人間を対象に薬剤とプラセ…

モヤモヤしたものをモヤモヤ見るということ

身体に不条理として迫る現象。僕たちはそれを医療という枠組みで治療しようと思考する。そして、僕たちはその現象と向き合う際に、身体不条理がなぜ起こっているのか知りたいという欲求が生じる。理解しがたい、そして耐え難い現象に対して、その発症理由を…

とんでも医療と正統医療の哲学

こんなニュースを見た。 [正統医療は正統なのか] 「メタボ健診、効果検証できず=データ数十億件宙に―厚労省対策放置か・検査院」[1] 正直もう、どうしようもないとしか言いようがない。ほとほとあきれる。メタボ健診は効果を検証するという作業なしには継…

医療…その“科学的”という立場を再考する

[根拠に基づかない医療は存在するか] EBM(Evidence-Based Medicine)は、一般的に「根拠に基づく医療」と訳される。「根拠に基づく医療」という概念が存在するのならば、「根拠に基づかない医療」などという概念が存在するのだろうか。そのような疑問が提…

思想的、疫学的、医療について

[高所からの自由落下時のパラシュートの有用性] パラシュートの装着で死亡や重度の外傷は防げるか、というシステマテックレビュー&メタ分析がBMJより報告されている。1)どういう事か、すなわち高所から飛び降りる際の、パラシュート装着に関する有用性を…

科学的方法論と医療と

科学も哲学もクリエイティブな概念を生み出すが、科学だけが自然界を離れず、世界の仕組みを明らかにしていくように見える。科学は新しい概念を作り、そしてそれが自然現象をうまく説明するような、いわば正しいという仕方で存在する。なぜ新しいことと正し…

思想的、疫学的、因果関係について

[疾患の原因は単一ではない] ある事象が起こった時に、いったい何が原因だったのだろうか、僕たちは考える。あの時、転んでけがをしたのは、足元の石につまずいたからだ。だからあの石につまずいたことが原因なんだ。と、そう考えることは別になんの違和感も…

社会契約的医療論~一般意志2.0を実装したもう一つのEBM~

[行動原理とは何か] 薬剤師の臨床現場における行動原理とは何か。そもそも行動原理とは「人間の行動を基本的なところで規定しているもの」、パソコンで言えば、Windowsなどのオペレイティング・システム(Operating system)と言える。そして行動原理は「…

患者の選好・価値観に基づく医療(Value-based Medicine; VBM)

当記事は、第6回プライマリ・ケア連合学会学術大会 「シンポジウム10」 として開催された「生命の危機に直面した患者・家族と“いのちの終わり”に関する話し合いを始める」の口演をもとに作成しています。 [意思決定の根拠] 肺炎を発症した88歳の外来患者。…

続・病名の存在論的差異

これまで、病名について「モノ的」「コト的」そして、さらにコンスタティブな病名、パフォーマティブな病名という新しい概念を導入し、病名における存在論的差異を考察してきた。とりわけ健康と疾患の境目があいまいな慢性的疾患において、病名付与が人に与…

病名の存在論的差異

[コンスタティブな病名とパフォーマティヴな病名] 僕はこれまで、病名について、モノとコトという言葉を用いて、医療者にとっての病名と、患者にとっての病名を峻別してきた。(※1) 病名を付与されることで救われることも多々あることは承知している。した…

糖尿病検診のゆくえ

「個人の病気の推測などができる検査の面白さを薬剤師業務にも」 こう語る薬剤師が現れた。 検体測定室での健康チェック、かかりつけ薬局のカギに‐東女薬・小縣副会長 : 薬事日報ウェブサイト 賛否あると思うが、僕は個人的に以下のように考える。 個人の病…

脱構築的決定に垣間見る病名の暴力性

「現前の形而上学と健康幻想論」では、ジャック・デリダの脱構築的思考プロセスを用いて健康と不健康の決定不可能性を暴いたつもりだが、やや難解だっただろうか。 現前の形而上学と健康幻想論 - 思想的、疫学的、医療についてsyuichiao.hatenadiary.com 今…

現前の形而上学と健康幻想論

例えば、先天性の疾患、あるいは不幸にも事故で身体機能を失った人、若くして重篤な疾患に罹患してしまった人にとって、健康とはかけがえのないものだろう。そのような観点からの健康というものはまた別な考察を要する。本稿では一般的な平均寿命の中におい…

病名と時間、構造主義医療から考察する疾患定義とは何か

「病名とは何か、ソシュール言語学から垣間見る疾患成立の恣意性」 病名とは何か、ソシュール言語学から垣間見る疾患成立の恣意性 - 思想的、疫学的、医療についてsyuichiao.hatenadiary.com にて疾患成立の恣意性を考察してきたが、そのような仕方で成立し…