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思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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ノセボ効果に垣間見る薬剤情報提供のリスク

プラセボ効果のように、薬を飲んでいるから副作用が出るかもしれないという思い込みが、薬の作用とは関係なしに身体不条理を誘発してしまうことがあるという。これをノセボ効果と呼ぶ。つまり、全く効果のない薬でも思い込みによって副作用が出てしまう効果のことである。

仮にノセボ効果が高頻度で起きているのであれば、薬剤の作用自身が原因なのではなく、医療者の薬剤情報提供により薬物有害反応が惹起される可能性があるということだ。しかし、実臨床に影響しうるほどのノセボ効果が実際に起こり得るのだろうか。

プラセボ群における有害事象による研究脱落率〕

ランダム化比較試験などの臨床研究論文を読んでいると、特に痛みや症状スコアなど主観的なアウトカムはプラセボ群でも改善することが示されていることがあり、プラセボ効果ってすげえなあと思うのだが、プラセボ群でも有害事象が報告されていることが多く、これは逆プラセボ効果だなあ、なんて思っていた。よくよく考えるとこれがノセボ効果ってやつだ。

スタチン系薬剤の臨床試験において、有害事象による研究脱落率を検討した論文が報告されている。[1]

この研究は1992年までに報告されているスタチンのランダム化比較試験において、プラセボ群に焦点を当て、有害事象による研究脱落率を調査したものだ。その結果は4~26%となっている。(図1)26%と言うと実に四分の一だ。

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(図1) Discontinuation Rates in Some Clinical Trials

(Arch Intern Med. 2006 Jan 23;166(2):155-60より引用)

 

これがノセボ効果によるものなのか、それとも研究参加者の病状によるものなのかと言う問題がある。ただ有害事象別の解析を見ていると、頭痛やら下痢やら吐き気などが挙げられており、脂質異常症という病状だけでは説明できないような気もする。

〔実験的研究によるノセボ効果の検証〕

ノセボ効果は本当に存在するのだろうか。疼痛に対する予期と恐怖回避の信念が回避行動と関連するか検討したランダム化比較試験が報告されている。[2]

この研究は、疼痛の訴え期間が平均で86.7ヶ月の慢性腰痛を有する50人(女性23人、平均41.4歳)を対象に、足の屈曲運動をしてもらうというものだ。研究の前に、疼痛が増加すると説明された群と、痛みは増加をもたらさないと説明を受けた群にランダム化している。その結果、疼痛の予期を誘導することは、行動のパフォーマンスを低下させるだけでなく、疼痛強度と恐怖を増加させたと報告されている。

つまりこういうことだ。慢性腰痛を有する被験者に(図2)のような装置を用いて足の屈曲運動をしてもらう。

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(図2)Pain Med. 2001 Dec;2(4):259-66より引用

事前に痛みが増えちゃいますよ、とさりげなく被験者に言う群と、痛みは増えませんから!と被験者に言う群にランダム化しているのだ。すると痛みのVASは(図3)のようなる。

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(図3)Pain Med. 2001 Dec;2(4):259-66より引用

偶然そうなったのか、はたまたこれがノセボ効果なのか、議論の余地もあるかもしれない。ただ、薬剤特異的な有害事象がそのプラセボにも現れるという興味深い示唆がある。

抗うつ薬プラセボも種類によってその有害反応が異なる〕

うつ病治療においては実薬群とプラセボ群で、頭痛、嘔気、嘔吐、腹痛など主観的な油外事象に明確な差が無いことがメタ分析により示されている。[3]

この研究では、7つのランダム化比較試験に参加した1911人が解析対象となっている。その結果、有害事象は実薬群、プラセボ群でほぼ同等であった。相対危険1.04[95%信頼区間 0.97~1.11]

 

三環系抗うつ薬SSRIに比べてもやはり口渇や便秘などの有害事象が多いと想定できるが、三環系抗うつ薬プラセボSSRIプラセボを比較しても同様の傾向が認められたとする興味深い報告がなされた。[4]

この研究は、三環系抗うつ薬SSRI臨床試験におけるプラセボ群の有害事象をメタ分析し比較したものだ。143研究のプラセボ群12742例が解析対象となっている。その結果、SSRIプラセボに比べて三環系抗うつ薬プラセボで有意に有害事象が多いという結果になっている。

・口渇:オッズ比3.5[95%信頼区間2.9~4.2]

・眠気:オッズ比2.7[95%信頼区間2.2~3.4]

・便秘:オッズ比2.7[95%信頼区間2.1~3.6]

 

薬剤特異的な有害反応がプラセボにも表れるというとても興味深い報告だ。

[ノセボ効果を検討した研究]

ノセボ効果を検討した研究は片頭痛治療が有名である。片頭痛治療に関する69研究のシステマティックレビューによれば、プラセボ群の有害事象は片頭痛治療薬群に匹敵すると報告されている。[5] そのほかにも多々研究は報告されているが、腹痛、嘔気、睡眠障害やかゆみなどの主観的な有害反応が多い。(図5)[6]

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(図5) Nocebo effects in clinical studies

(Dtsch Arztebl Int. 2012 Jun;109(26):459-65より引用)

ノセボ効果の発現にはコレシストキニンの関与が示唆されている。コレシストキニンと言えば、消化器系での作用を思い浮かべてしまうのだが、どうやら中枢神経系でも作用しているらしい。コレシストキニンは不安により誘導され、痛みを誘発することもあるらしい。[7]

[薬剤情報提供に潜むノセボ効果の誘発リスク]

例えば、ACE阻害薬の副作用に空咳は有名だが、その説明を丁寧に行うことは、空咳を誘発し、治療中止に追い込まれる恐れもはらんでいるわけだ。ノセボ効果について調べていると、薬剤師としての医薬品情報提供の在り方を考えさせられる。

ノセボ効果への対策として治療の忍容性に焦点を当てる。情報の非公開の許可、患者教育などが挙げられている。(脚注5)

少なくとも提供しようとしている薬剤の副作用情報が、一過性で軽症かつ可逆的のものなのか、あるいは継続的で、重症で不可逆的なものなのか、ということは意識すべきだろう。継続的治療で薬剤ベネフィットが十分に得られるだろうと考えられるとき、投与初期に起こり得る一過性の軽度な有害事象を懇切丁寧に指導する必要性がどの程度あるのか、熟慮したい。

あえて情報を提供しないということが、倫理的問題からどの程度正当化されるのかについて、掘り下げていくと深いテーマになりそうだが、少なくとも情報提供が薬物有害反応を引き起こしている可能性が高いことを踏まえると、副作用の説明にはリスクとベネフィットが存在するということが明らかになる。

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〔参考文献〕

[1] Rief W.et.al. Medication-attributed adverse effects in placebo groups: implications for assessment of adverse effects. Arch Intern Med. 2006 Jan 23;166(2):155-60. PMID: 16432082

[2] Pfingsten M.et.al. Fear-avoidance behavior and anticipation of pain in patients with chronic low back pain: a randomized controlled study. Pain Med. 2001 Dec;2(4):259-66. PMID: 15102230

[3] Rojas-Mirquez JC.et,al. Nocebo effect in randomized clinical trials of antidepressants in children and adolescents: systematic review and meta-analysis. Front Behav Neurosci. 2014 Nov 3;8:375. PMID: 25404901

[4] Rief W.et.al. Differences in adverse effect reporting in placebo groups in SSRI and tricyclic antidepressant trials: a systematic review and meta-analysis. Drug Saf. 2009;32(11):1041-56. PMID: 19810776

[5] Amanzio M.et.al. A systematic review of adverse events in placebo groups of anti-migraine clinical trials. Pain. 2009 Dec;146(3):261-9. PMID: 19781854

[6] Häuser W.et.al. Nocebo phenomena in medicine: their relevance in everyday clinical practice. Dtsch Arztebl Int. 2012 Jun;109(26):459-65. PMID: 22833756

[7] Benedetti F.et.al. When words are painful: unraveling the mechanisms of the nocebo effect. Neuroscience. 2007 Jun 29;147(2):260-71.