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思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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有害アウトカム覚知の暫定性-生成と消滅のゆくえ―

[はじめに]

ランダム化比較試験(RCT)は仮説検証型研究であるが、仮説を検証できるのは一次アウトカムのみである。また多くの場合で、倫理的な問題から、有害アウトカムが一次アウトカムになることはない。とはいえ、一つのランダム化比較試験で示された有害アウトカムの増加は、サンプルサイズが膨大な大規模観察研究やメタ分析で示唆された有害アウトカムに比べるとかなりインパクトがある。

ただやはり、あくまでも仮説生成であることに注意が必要だ。一次アウトカムではない限り、検証された仮説ではないのである。結論を先取りすれば、仮説生成された有害アウトカムは軽視はできないものの、継続して論文結果をフォローし、必要に応じて解釈を編みかえる必要がある

本稿では、単一のRCTで仮説生成された有害アウトカムのゆくえについて、まずピオグリタゾンと心不全リスクについて、疫学的研究を時系列に点検しながら考察を加える。次にサキサグリプチンと心不全リスクについても同様に検討し、最後にこれら2つの事例から、単一のランダム化比較試験で示唆された有害事象を、どのように考えてゆけばよいか示す。

[ピオグリタゾンと心不全リスク]

…本当にアクがトクするのか…

 

Secondary prevention of macrovascular events in patients with type 2 diabetes in the PROactive Study (PROspective pioglitAzone Clinical Trial In ma... - PubMed - NCBI

ピオグリタゾンと心血管アウトカムに関する2重盲検ランダム化比較試験PROACTIVEである。2型糖尿病患者5238人を対象とし、ピオグリタゾンとプラセボが比較された。この研究ではピオグリタゾン群6%、プラセボ群4%と統計的にも有意にピオグリタゾン群で心不全による入院が増加した。ただし心不全死亡に関しては明確な差はない。

Pioglitazone and risk of cardiovascular events in patients with type 2 diabetes mellitus: a meta-analysis of randomized trials. - PubMed - NCBI

ピオグリタゾンと心血管アウトカムに関するランダム化比較試験のメタ分析。19研究16 390人が解析対象となった。重篤な心不全はピオグリタゾン群で2.3%、プラセボ群で1.8%とハザード比は1.41[95%信頼区間1.14~1.76]であった。

Thiazolidinediones and cardiovascular outcomes in older patients with diabetes. - PubMed - NCBI

高齢者のチアゾリジンと心血管アウトカムに関するコホート内症例対照研究。チアゾリジンによる治療でうっ血性心不全リスクが増加。発生率比は1.60[95%信頼区間1.21~2.10]ただし、この研究で示唆されたリスク増加はチアゾリジンといってもピオグリタゾンではなく、ロシグリタゾンである。

Pioglitazone and cardiovascular risk. A comprehensive meta-analysis of randomized clinical trials. - PubMed - NCBI

ピオグリタゾンと心血管アウトカムに関するランダム化比較試験のメタ分析。94研究が解析に含まれているが、PROACTIVEが除外されているところがポイント。ピオグリタゾン群11268例、対照群9912例が解析対象となっており、このメタ分析ではリスクの有意な上昇は示されなかった。オッズ比1.38 [95%信頼区間0.90~2.12]Database of Abstracts of Reviews of Effectsの要約を見ると

「data from the PROACTIVE trial (n=5 238) was not included in some of the meta-analysis, because the number of events was much larger than for the other studies.」

とあるようにPROACTIVEのみでイベントが多かったことが示唆されている。

Adverse cardiovascular events during treatment with pioglitazone and rosiglitazone: population based cohort study. - PubMed - NCBI

ピオグリタゾンとロシグリタゾンを比較し、心血管アウトカムを検討した後ろ向きコホート研究。カナダ、オンタリオのデータベースより39 736人が解析対象となった。この研究ではピオグリタゾンよりもロシグリタゾンで心不全リスクが高いことが示されている。

Risk of acute myocardial infarction, stroke, heart failure, and death in elderly Medicare patients treated with rosiglitazone or pioglitazone. - PubMed - NCBI

ピオグリタゾン、ロシグリタゾンを比較し、心血管アウトカムを検討した後ろ向きコホート研究。65歳以上の227,571人が対象となった。この研究でもピオグリタゾンよりもロシグリタゾンで心不全リスクが高いことが示されている。

Comparative cardiovascular effects of thiazolidinediones: systematic review and meta-analysis of observational studies. - PubMed - NCBI

ロシグリタゾンとピオグリタゾンの心血管アウトカムを検討した観察研究のメタ分析。16研究810,000人が解析対象となっている。ピオグリタゾンに比べてロシグリタゾンではオッズ比1.22[95%信頼区間 1.14 ~1.31]であり、これまでの研究を踏まえれば、ピオグリタゾンに比べて、ロシグリタゾンのリスクは一貫している。

Risk of death and cardiovascular outcomes with thiazolidinediones: a study with the general practice research database and secondary care data. - PubMed - NCBI

The General Practice Research Databaseを用いてピオグリタゾンとロシグリタゾンを比較し、心血管アウトカムを検討したコホート研究。ピオグリタゾンに比べてロシグリタゾンでは心不全による入院だけでなく死亡リスクも増加している。

Thiazolidinediones and risk of heart failure in patients with or at high risk of type 2 diabetes mellitus: a meta-analysis and meta-regression anal... - PubMed - NCBI

チアゾリジンと心不全リスクを検討したランダム化比較試験のメタ分析29 研究、20254人が対象となっている。間接比較だが、この研究でもピオグリタゾンよりロシグリタゾンで心不全リスク増加が示唆されている。

ロシグリタゾン:オッズ比2.73[95%信頼区間1.46~5.10]
ピオグリタゾン:オッズ比1.51[95%信頼区間1.26~1.81]

Development of heart failure in Medicaid patients with type 2 diabetes treated with pioglitazone, rosiglitazone, or metformin. - PubMed - NCBI

メトホルミン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾンと心不全の関連を検討した後ろ向きコホート研究。Medicaidのデータより6,271人が解析対象。メトホルミンに比べて、ロシグリタゾンではリスク増加したが、ピオグリタゾンでは差が見られなかった。

Number needed to harm in the post-marketing safety evaluation: results for rosiglitazone and pioglitazone. - PubMed - NCBI

ロシグリタゾン、ピオグリタゾンのRCT、観察研究のメタ分析。ピオグリタゾンのうっ血性心不全NNHは11[6〜403]

[単一のRCTで示唆された有害アウトカムとその後のRCT]

これまでの研究を俯瞰してみると、ロシグリタゾンのリスクはもはや明らかな印象だが、ピオグリタゾンと心不全リスクは2005年のPROACTIVEを引きずっているように思われる。観察研究やPROACTIVEを除外した解析では心不全リスクは明確には増加していないことからも、この仮説は支持されるのではないか。

ただ、注意が必要なのは、PROACTIVE以降、ピオグリタゾンのトライアルでは心不全という有害アウトカムに対して、倫理的な観点から様々な配慮がなされているであろうことが推測される。

PROACTIVEでも、一部の心不全患者は除外基準となっていたが、近年報告されたピオグリタゾンの大規模ランダム化比較試験IRIS Tria [N Engl J Med. 2016 Apr 7;374(14):1321-31. PMID: 26886418]でも、

「We also excluded patients withNew York Heart Association class 3 or 4 heart failure or class 2 heart failure with a reducedejection fraction」

となっている。ちなみにこの研究では心不全有意な差はついていない。

[DPP4阻害薬と心不全

…効果がプラセボとほぼ同等なのに…プラセボより高価な薬がこの世にはたくさんあるんだよ…

DPP4阻害薬と心不全リスクも同様な考察が可能だと思われる。SAVOR-TIMI 53 で示唆されたサキサグリプチンの心不全による入院リスクはその後の研究を見ていくと、ピオグリタゾンの心不全リスクとよく似た経過を示唆する。以下、簡単に論文を時系列でまとめる。

[SAVOR-TIMI 53:N Engl J Med. 2013 Oct 3;369(14):1317-26 PMID: 2399260]

ランダム化比較試験:hospitalized for heart failure (3.5% vs. 2.8%; hazard ratio, 1.27; 95% CI, 1.07 to 1.51)

[Cardiovasc Ther. 2014 Apr 21.PMID: 24750644]

メタ分析:statistically significant increase in heart failure outcomes (n = 39,953, RR = 1.16, 95% CI 1.01-1.33, P = 0.04).

[Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2014 Jul;24(7):689-97. PMID: 24793580]

メタ分析:The overall risk of acute heart failure was higher in patients treated with DPP4i in comparison with those treated with placebo/active comparators (MH-OR: 1.19[1.03; 1.37]; p = 0.015).

[Lancet. 2015 May 23;385(9982):2067-76 PMID: 25765696]

メタ分析alogliptin did not increase the risk of heart failure outcomes.

Eur Heart J. 2015 Sep 21;36(36):2454-62 PMID: 26112890]

コホート研究the use of DPP-4i was associated with a reduced risk of HHF when compared with sulphonylureas.

[Diabetes Care. 2016 Jan 6. pii: dc150764. [Epub ahead of print] PMID: 26740636]

コホート研究there was no association between hHF, or other selected cardiovascular outcomes, and treatment with a DPP-4i relative to SU or treatment with saxagliptin relative to sitagliptin.

BMJ. 2016 Feb 17;352:i610. PMID: 26888822]

メタ分析he relative effect of DPP-4 inhibitors on the risk of heart failure in patients with type 2 diabetes is uncertain

[JAMA Cardiol. Published online April 13, 2016. doi:10.1001/jamacardio.2016.0103]

RCT二次解析Sitagliptin use does not affect the risk for hHF in T2DM,

[Ann Intern Med. 2016 Apr 26.  [Epub ahead of print]PMID: 27110660]

higher risk for hHF was not observed in users of saxagliptin or sitagliptin compared with other selected antihyperglycemic agents.10660]

 

DPP4阻害薬の心不全リスクはアログリプチンのRCT(EXAMIN)、シタグリプチンのRCT(TECOS)でも示されていないことから、関連性はかなり低い印象がある。もちろんチアゾリジンという同一クラス薬剤でもロシグリタゾンとピオグリタゾンにはリスクの程度に差異がある可能性が高いことから、サキサグリプチンも同様に安全とは言い切れないのだが、SAVOR-TIMI 53以降、一部のメタ分析でリスクの上昇が示唆されたのは出版バイアスの影響も大きいだろう。

[limitation]

この検討でのlimitationとして、心不全による「入院」と言うようなアウトカムは系統誤差を生じやすい。研究ごとに診断基準が一定でない可能性があり、研究間で比較できるアウトカムかどうかについて議論の余地がある。しかし、このような検討手法は、他の有害アウトカムについても応用が可能であろう。

[仮説の生成と消滅可能性]

これまでの検討で見てきたように、単一の大規模RCTでなにがしかの有害イベントリスク上昇が示唆されると、その後のメタ分析の結果はやはりバイアスがかかってしまう可能性は高い。また一方で、その有害アウトカムに対する倫理的配慮は後続の研究における有害事象検出にバイアスをかけることになるかもしれない。整理しよう。

 

■単一のランダム化比較試験で有害アウトカムが示唆された場合

①それが一次アウトカムであれば、その有害性をかなり重視する。

当然ながら、後続の研究結果にも注視し、必要に応じて解釈を変える必要があるかもしれないが、当該RCT結果のインパクトは大きい。解釈変動可能性の余地は、後述の②よりも小さい。

②それが一次アウトカムでなければ、その有害性を軽視しない。

サンプルサイズの観点から、少なくとも観察研究やメタ分析で示唆された有害性よりもインパクトは強い。しかしながらあくまでも仮説生成であり、その後の研究をフォローする必要性があり、重要視する程度は後続研究の結果により、変動して行く。その変動余地は前述の①よりも大きい。

 

■単一のランダム化比較試験で有害アウトカムが仮説生成した場合

①後続のメタ分析では、当該RCTが解析に含まれているか注意する。

・当該RCTが解析に含まれている場合、異質性を評価する。

・異質性が低い場合、リスクを重要視する程度は高くなる。

②後続のRCTでは倫理的観点から当該有害事象への配慮がなされているケースがあるかもしれない。

・後続のRCTの除外基準などを当該RCTと比較検討すべき。

・RCTのみならず、観察研究もシステマティックに俯瞰する必要がある。

真のリスク(そんなものがあれば、だが)はどの程度か、やはり継続して論文を読み続けるしかない。仮説生成された有害アウトカムについては、その時点で軽視することなく、ただ、その後の論文結果にバイアスが入り込む余地があること、そして、仮説は常に消滅可能性を有するという事も意識したい。

[おわりに]

有害事象インパクトがある。しかしそれだけが独り歩きする可能性がある。「出来事」は常に生成し、消滅を繰り返す流動的なものである。永続性を有するのか否か、それは論文結果を時系列で追っていくしかない。つまり、薬剤の効果を僕たちは常に暫定的にしか知ることができないのだ。それをあらためて知ることが必要である。