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思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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【書籍出版のお知らせ】ポリファーマシー解決!虎の巻

『ポリファーマシー解決!虎の巻』が出版されます。本書は日経DIオンラインコラムで連載中の「これで解決!ポリファーマシー」がベースになっていますが、その内容は大幅に加筆されています。僕の初めての単著となる本ですが、これまで整理してきた薬の考え方についてそのすべてを言語化したものとなっています。

ポリファーマシー解決! 虎の巻 (薬局虎の巻シリーズ)

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 僕がポリファーマシーに興味を持ったのは、徳田安春先生が編集した『提言―日本のポリファーマシー』という本でした。この本ではじめてポリファーマシーという言葉を知ったわけですが、薬剤師によるEBMの実践を模索していた僕としては、薬剤のリスクベネフィットを患者個別に熟慮すれば、そもそも多剤併用など起こり得ないのではないか、そんなふうにも考えていました。

臨床医学薬学に関する論文を読むことは自分の専門と言えば専門で、ほぼ毎日論文に目を通すわけですが、ポリファーマシーに関するある衝撃的な論文を目にしたとき、今の日本で盛り上がりつつあるポリファーマシー問題とその関わり方に違和感を覚えるようになりました。その論文が以下のものです。

 Frankenthal D, et al. Intervention with the screening tool of older persons potentially inappropriate prescriptions/screening tool to alert doctors to right treatment criteria in elderly residents of a chronic geriatric facility: a randomized clinical trial. J Am Geriatr Soc.2014;62(9):1658-65. PMID:25243680

 

潜在的な不適切処方が分かりやすくまとめられたスクリーニングツールの一つにSTOPP /STARTクライテリアというものがあります。この論文発表当時、このようなクライテリアを積極的に活用し、不要な薬剤を削減していこう、と言うような空気が生まれつつあったように思います。

しかし、この論文は、そんな空気を跡形もなく吹き飛ばすのに十分なほどのインパクトがありました。この研究では、施設居住高齢者359 人(平均82.7 歳)を対象に、処方された薬剤について薬剤師がレビューを行い、STOPP /STARTクライテリアに基づき、主治医へ報告する介入群と、通常の薬物療法群を比較しています。その結果、12カ月後の使用薬剤数やコストは、通常薬物療法群に比べて介入群で有意に減りましたが、一方で、この研究では、転倒回数や入院回数、QOLに明確な差は見られなかったのです。

つまり、薬剤師がクライテリアを積極的に活用しても、臨床アウトカムの改善はほとんど期待できない、というかなり絶望的なものでした。(後に薬剤関連問題の多くはクライテリアでは同定できない、というコホート研究が報告され、腑に落ちる部分もありました。)

クライテリアはあくまで参考にすべき情報の一つに過ぎない。ポリファーマシーとの関わりにおいて、基盤となるのはやはりEBMだと、僕は確信しました。そもそも『ポリファーマシー』という言葉には適切な訳語が無いことからも明らかなように、英語圏で生まれた概念です。そして欧米の医療従事者は、英語で書かれた臨床医学論文を日常的に読める環境にいるわけです。僕のように必死にグーグル翻訳で論文を読むのではなく、母国語(あるいは文法的にそれに近い言語)で論文を読んでいるわけですから、当然ながらEBMの実践という基盤は、我が国の薬剤師よりもずっと浸透していて(と僕は思います)そういったことを前提にしたうえでのクライテリアなわけです。日本では、臨床医学に関する論文情報をすっ飛ばしてクライテリアだけが独り歩きしている印象はありました。

そんな現状に違和感を抱きつつも、2016年2月に「症例から学ぶ薬剤師のためのEBM」という日経DIオンラインコラムの連載が終了しました。この連載終了間際に、当時この連載の編集を担当していただいていた方に、ポリファーマシーで新連載をやりたい、と僕が勝手に原稿を持ち込んだのが本書誕生のきっかけと言えるでしょう。僕の勝手な提案を快く受け入れてくれた日経ドラックインフォメーション編集部の皆様に心より感謝申しげます。短期間での編集、とても大変な作業だったかと思います。本当にありがとうございました。

また、本書刊行にあたり、師匠、名郷直樹先生より感動的な推薦文をいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。お忙しいところ、誠にありがとうございました。