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思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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潜在的に不適切な仕方で用いられているキノロンの影~小児への処方実態から考察する~

添付文書上、フルオロキノロン製剤(以下キノロン)は、その多くが小児に対して「禁忌」となっている。添付文書上の小児とは一般的に15歳未満を指すが、厚生労働省が公開した第1回NDBオープンデータ(H26年04月~H27年03月)を調べてみると、キノロンが小児に対して処方されている実態が明らかとなっている。「禁忌」というのは当該医薬品を使用してはいけない患者を記載しているわけだが、現実的には使用されているケースが確実に存在するという事だ。

小児に対して禁忌に該当しないキノロンはトスフロキサシン(オゼックス®)とノルフロキサシン(バクシダール®)であるが、NDBオープンデータに掲載されているキノロン使用量のうちこの2剤を除き、小児への使用を整理すると(表1)のようになる。

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(図1)小児に対して禁忌であるキノロンの処方実態

 やや見にくいだろうが、表の一番右に算出したのが、各製剤における「総使用量」に対する「小児への使用量」の“割合”である。このデータは薬剤使用量ベースの集計なので用法用量の異なる薬剤の使用量を単純に比較することができない。また、年齢人口で補正していないので、年齢別で比較することも難しい。しかしながら、総使用量に対する当該年齢における使用量の割合を製剤間で比較することで、処方実態の大まかな傾向を把握することができるであろう。

 ただし、特に小児領域の薬剤使用量で注意が必要なのは、成人と小児での投与量に差異があるということである。小児に対する薬剤使用は体重によって投与量を調整するため、成人量よりもはるかに少ない量となることがある。つまり総使用量に対する小児の使用量の割合は、実際の処方件数の割合を示唆するものではなく、処方件数はこれよりも大きな数字となるであろう。異論も多々あるように思えるが、ひとまず(表1)における薬剤間の使用量について相対的な比較にはなんとか耐えそうな指標と思われる。

 (表1)からすぐに見て取れるのが、レボフロキサシン100㎎錠の小児への使用が、クラビット500㎎やジェニナック、アベロックスよりも多い事である。これはつまり、薬用量の問題であることは容易に想像がつく。

 ところで、レボフロキサシンの100㎎剤型は2015年に各社製造販売を中止している。そのため、今後の処方動向は不明な部分もあるが、小児用キノロン製剤(オゼックス細粒、小児用バクシダール等)が使われるか、あるいはクラビット細粒が使われるのか、といったところかもしれない。なお、(表1)に示したキノロンの総使用量に対する小児への使用量の割合は平均で2.44%であった。

 

小児に対して、禁忌ではないキノロンについてもまとめてみた。(表2)なお、この表では小児適用が明らかな、オゼックス小児用細粒と小児用バクシダールを除外してある。

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(図2)小児に対して禁忌でないキノロンの処方実態

これら薬剤の総使用量に対する小児への使用量の割合は平均で9.69%で、小児に対して禁忌であるキノロンに比べて使用割合が高かった。あたりまえだが、添付文書上の「禁忌」に該当するという事実は、その使用量の抑止に一定の効果があるようである。

[小児にキノロン、なぜ禁忌なのか]

クラビット®の添付文書によると「小児等への投与」の項目に

低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していないので、投与しないこと』

と記載がある。また「その他の注意」には

動物実験[幼若犬、若い成犬(13ヵ月齢)、幼若ラット]で関節異常が認められている。』

 と記載されている。安全性が確立していない、というのは臨床判断上かなり曖昧な表現である。やや屁理屈かもしれないが、安全性は確立していないが、使用が正当化されるケースはありうるのか、とか、どんなリスクがどの程度、懸念されうるのか、という疑問には全く答えられていない。また「その他の注意」においては人での考察ではなく、犬やラットの話である。

 このように添付文書においては投与が禁忌であるという事に対して論理的な説明がなされていないことは多々ある。決して、キノロンの小児への安易な使用を擁護しようという意図はないが、個人的に論理的でない話でもって、“こうである”と結論されるのがきらいである。

[小児に対するキノロンの安全性]

 ビーグル犬(幼若犬)におけるキノロン非臨床試験は、体重を支える関節の関節軟骨損傷を示唆していた。犬に限らず未成熟動物の成長における軟骨毒性および不可逆的な軟骨損傷を示す研究は多々あり、この事実が小児患者におけるキノロンの一般的な使用を制限し、小児の成長における同様の有害事象発生が懸念されている。[1][2][3][4][5] 

 2007年にNoelらにより報告された2523例の小児を対象としたレボフロキサシンの筋骨格障害に関する安全性解析[6]によれば、1以上の筋骨格系有害事象(関節炎、関節痛、腱障害、または歩行異常)は非キノロン系抗菌薬よりも、レボフロキサシンの治療を受けた小児においてより高かったと報告された。

 ところが、20011年にKaguelidouらにより報告された新生児を対象としたシプロフロキサシンの安全性解析レビュー[7] によれば、重篤な有害事象は認められなかったとしている。

 2011年のAdefurinらによるシステマティックレビュー[8]では、シプロフロキサシンの関節有害事象リスクの懸念が示唆されている。とはいえ、報告された関節症の多くが関節痛であり、すべての関節症は、適切な管理によって消失または改善されたと報告している。関節症の発生年齢は7ヶ月〜17歳(中央値10年)でそのリスクは1.57 (OR 95% CI 1.26 to 1.97)と推定されている。

 2014年には、Johnらによって離断性骨軟骨炎を発症した10歳児の症例が報告されているが、本症例では慢性尿路感染のためにシプロフロキサシンを18ヶ月という長期にわたって使用されていた。[9]

 小児においてフルオロキノロンで治療した際の筋骨格系副作用の可能性についての懸念は依然として残ってはいるが、そのリスクの程度はあまり明確ではない。不可逆的かつ重篤な有害事象は、潜在的に不適切な仕方(不必要な長期投与、代替抗菌薬があるにも関わらずキノロンを選択する…など)でキノロンが使用された際に、ごくまれに起こるものと考えられる。

代替抗菌薬を使用できず、かつ生命を脅かすもので治療が困難な感染症において、その使用をためらうものではなかろう。とはいえ、そのようなセッティング自体が、小児外来においては稀であるように思われる。つまり、そもそもキノロンを使うべき状況は限られているのだ。そういったことを踏まえれば、わが国の処方実態の動向から潜在的に不適切な仕方で用いられているキノロンの影が垣間見えるとは言えないだろうか。

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[参考文献]

[1] Expert Opin Drug Saf. 2005 Mar;4(2):299-309.
[2] J Pediatr Orthop. 2009 Mar;29(2):189-95.
[3] CJEM. 2007 Nov;9(6):459-62.
[4] Infection. 1996 Mar-Apr;24(2):151-5.
[5] J Bone Joint Surg Am. 2001;83-A Suppl 2(Pt 1):56-61.
[6] Pediatr Infect Dis J. 2007 Oct;26(10):879-91.
[7] Pediatr Infect Dis J. 2011 Feb; 30(2):e29-37
[8] Arch Dis Child. 2011 Sep;96(9):874-80.
[9] BMJ Case Rep. 2014; 2014: bcr2014204544.

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