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思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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医学論文、活用の仕方がわかりません!!~論文情報活用のヒント~

前回は『医学論文を読むにあたり”壁”となっているものと、それを乗り越えるために…』と題して、Twitterの投票機能を使った調査に基づき、医学論文を読むにあたり、障壁となっている問題点を取り上げ、それをいかに乗り越えていくかについて、参考となる書籍を中心に整理しました。

syuichiao.hatenadiary.com

Google翻訳や、基礎的な統計/疫学の知識さえあれば、とりあえずは論文抄録だけでも読み進めることができると思います。しかしながら、”論文を読んではみたものの、その情報を薬剤師の立場でどのように活用していけば良いのかよくわからない”という声は良く聞きます。

実際、僕自身COPD治療薬のチオトロピウムミスト吸入製剤で死亡リスクが52%増加するという論文(BMJ. 2011 Jun 14;342:d3215.)を読んで大変衝撃を受けたものの、この52%死亡が増加するという論文情報をどう活用して良いか全くかわかりませんでした。

こんな情報があるにも関わらず、現実には当たり前のようにチオトロピウムミスト吸入製剤が処方され続けていますし、患者も薬を継続することになんの疑いも抱いていません。薬剤師の立場で、「この薬を使っていると死亡リスクが1.5倍になるから中止した方が良いでしょう」とストレートに医師(もしくは患者に)に情報提供することは事実上、不可能に近いといわざるを得ません。

[一つの論文だけでなく…]

論文情報を薬剤師の立場でどう活用すればよいでしょうか。薬剤師の立場、というのが一つのポイントなのですが、僕自身、EBMの実践を模索し続け、方向性として”これはありでしょう”と実感していることがあります。それは

「ある(一つの)論文の結果はこうであったので、こうした方が良い」という論文情報の使い方ではなく、「複数の論文情報を整理した結果、少なくともこのケースには、こうすべきではないかもしれない」という論文情報の使い方のほうが他者との共有性に優れている。

ということです。少しわかりにくいでしょうか。例えば、チオトロピウムミスト吸入製剤で言えば、特に心血管疾患の既往がある患者において、死亡リスク増加が示唆されています。(Eur Respir J. 2013 Sep;42(3):606-15) また同じチオトロピウムでも吸入用カプセル製剤であれば、死亡リスクの増加は現時点で示されていません。(J Aerosol Med Pulm Drug Deliv. 2014 Feb;27(1):43-50.

これらの情報を踏まえれば、既にターミナル期の高齢COPD患者で、人工呼吸器を装着しており、さらに心血管疾患の既往がある、というような状況では、チオトロピウムミスト吸入製剤の中止を十分に考慮できるでしょう。あるいはどうしても薬物治療が必要な場合、吸入手技に問題なければ、吸入カプセル製剤に代替するという提案も可能です。

薬剤師の立場では、一つの論文情報だけをもってして、その情報を活用すること自体に無理があるのかもしれません。有効性にしろ安全性にしろ、単にイベントリスクが増加(減少)するということだけでなく、どんな患者でリスクが増加(減少)するのか、複数の論文情報を紐解き、実際の医師のプラクティスを想像することが大切です。

”いろいろ調べてみたところ、少なくとも、こういうことは言えそうですが、いかがでしょうか、あるいはこういう選択肢もあります”というような仕方で論文情報を活用することで、医師(あるいは患者)と共に薬物療法を考える、きっかけとすることができると思います。

大事なのは「自分ならこういう情報を提供されたら、この問題についての判断はわりと明確になるかもしれない」という仕方で情報を構造化することです。

[みんなで考える]

論文情報の活用について、一人で悩んでいてもなかなかうまくいかないことがあります。そんな時、複数の人と同じ論文を読んで、その活用をいろいろ議論してみる、という方法が、とても有用です。このように複数の人で論文情報を読みながらディスカッションすることを論文抄読会なんて言いますが、論文情報の活用において、自分にはない視点にあらためて気づかされる良いきっかけとなるでしょう。

僕は共同主宰で”薬剤師のジャーナルクラブという、ツイキャスを活用したオンライン抄読会を毎月開催しています。お時間がありましたら是非参加してみてください。

また”薬剤師のジャーナルクラブ”で実際に展開されたディスカッション部分を、薬剤師向けの季刊誌「レシピプラス(南山堂)」”臨床疑問のゆくえ”というタイトルで連載しています。よく、「私は基礎からよくわかっていないから、論文を読むのはまだ早いのよ」なんて意見も聞きますが、ご安心ください。そもそも基礎にそれほど詳しくなくても臨床医学に論文は十分読めますし、「レシピプラス」は各テーマごとに基礎からしっかり学べますよ。

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[継続的に論文を読み続けることが大切]

一つの論文を読んでその活用法にあれこれ悩むより、まずは継続的に論文情報を追い続けるという事をしてみて下さい。あるテーマについて、類似の論文情報を整理していくと、そのテーマの治療法が、どんな患者において、どの程度の効果があり、どんな患者では、どのようなリスクが、どの程度増加するのか、というよりプラクティカルな情報に絞りこんで行くことができます。つまり沢山の論文情報を得ることは、より狭められた実践的な情報に集約されていくことを意味しています。このように論文情報が整理されてくると、実臨床において類似のテーマの問題に直面した際、しっかりエビデンスを踏まえた情報提供ができるはずです。

エビデンス情報の整理の仕方は月刊誌「薬局」1月号”Evidence Update 2017 最新の薬物治療のエビデンスを付加的に利用する”がおすすめです。

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[論文情報を追い続けることの大切さ]

知識は原理的に誤りうるものです。例えば、地球が宇宙の中心にあり、天球が回転しているとする地動説から、太陽を中心に地球が回転しているという天動説へのパラダイムシフトを考えてみてください。今現在の客観的知識は暫定的なものでありうる、ということを明確に教えてくれますね。

臨床医学、薬学分野においても、最新の論文情報が必ずしも正しい知見を示しているわけではありません。大事なのは、誤りうる可能性を含めて、全体としてどういった方向に進むかを考え続ける事です。最新の論文情報が常に正しい情報として置き換えられるわけではありません。情報が更新されないことの恐ろしさ、あるいは情報が更新されることの大切さは、情報の妥当性とは別問題なのです。論文情報は常に暫定的なものであり、大事なのは既存の論文情報に対して最新の論文情報を付加的に活用していくことです。その継続的なプロセスの中に、臨床判断の方向性が垣間見えてくるはずです。

何が正しいか明確には分からないからこそ、もっと論文に向き合える。正しい決断ではなく、よりリアルな決断をするために、継続して論文情報を追い続けるということを実践してみてください。この記事がそのきっかけの一つとなることができたら幸いです。

 

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