思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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【書籍の紹介】誰も教えてくれなかった実践薬歴

 僕は薬学部を卒業してすぐに保険薬局に就職しました。あの当時、配属店舗で半年も働けば、先輩の薬剤師と同等か、それ以上の仕事量が求められていたような気がします。ただ、ひたすら処方箋に記載された薬剤を調剤し、それを患者さんに渡していく毎日。そのルーチンワークの中で、疲弊がなかったといえば嘘になりましょう。

  夕刻を回っても途切れない来局患者。机の上には、未記入の薬剤服用歴管理記録(薬歴)が山積みになっていきます。門前のクリニックが終了し、自店舗のシャッターを閉めた後、ようやく薬歴に向かうという状況の中で、形式のみを満たしたSOAPという名の一言日記が量産されていきました。

 

  大学の学部教育において、臨床現場における実践的な薬歴の記載方法やその活用法を学ぶ機会はほとんどありません(もちろん大学によってばらつきはあると思いますが)。しかし、臨床においても、十分な教育機会があるかといえば、必ずしもそうではないでしょう。調剤業務に忙殺され、薬歴の活用についてしっかり向き合う機会も少ないというのが現実だと思います。そんな状況の中で、起こるべくして起きたのが薬歴未記載の問題だったのかもしれません。

 

 もちろん、この数年で事情はだいぶ改善されているように思います。電子薬歴を導入し、薬剤服用歴管理における業務負担の改善を図っている企業も多いことでしょう。しかし、薬歴そのものの活用意義については、未だに関心が向けられていないことも少なくないはずです。

 

 ツールはその活用方法を知らなければ、価値を見出せませんスマートフォン端末に価値を見出すのも、それがどのようなことに役に立って、何をすることができるのかをあらかじめ知っているからです。薬歴が、どのようなことに役にたち、薬歴を使って、いったい何ができるのか……。

 山本雄一郎さんの『誰も教えてくれなかった実践薬歴』がついに発売されました。

誰も教えてくれなかった実践薬歴

 これまで形式的な薬歴についての解説を加えた書籍はありましたが、実践的な薬歴に関する書籍は皆無でした。本書は、薬剤師になったその日から読むべき書籍であるとともに、これまで薬歴記載に意義を見いだせなかった薬剤師にとっても、自分の世界を大きく変える1冊になるでしょう。

 そして「おわりに」に、僕の言葉を引用していただきました。ありがとうございます。無限の知の探究、そのガイドブックとして。薬剤師免許を取得したあの当時、そのタイミングで僕がこの本に出会っていたら……と思わずにはいられません。