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日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」について②-糖尿病合併高血圧

 日本高血圧学会より発行された「高血圧治療ガイドライン2019」をもう少し読み進めてみる。ちなみに本ガイドライン巻末の引用文献リストには、PMIDが併記されているため、原著論文を参照したい時にはかなり利便性が高い。

《日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 高血圧治療ガイドライン2019》

高血圧治療ガイドライン2019

 高圧目標値、塩分制限、高齢者での目標血圧に関する推奨については、前回のエントリーを参照いただければ幸いである。

syuichiao.hatenadiary.com

 今回は糖尿病合併高血圧症に関する2つの推奨を確認していく。

 

■糖尿病合併高血圧の降圧目標:収縮期血圧130mmHg
 ・推奨の強さ2(弱く推奨する)
 ・エビデンスの強さB(中等度の確信がある)

  本ガイドラインにおいて、糖尿病合併高血圧の薬物療法では、脳心血管病の発症を低下させるために、収縮血圧130mmHg未満を目指すことが推奨されている。その主要な根拠として挙げられているのが日本人を対象にした大規模臨床試験J-DOIT3試験の結果である。

Ueki K, et al : Effect of an intensified multifactorial intervention on cardiovascular outcomes and mortality in type 2 diabetes (J-DOIT3): an open-label, randomised controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Dec;5(12):951-964. PMID: 29079252

  J-DOIT3試験PECOを【表1】に要約する。

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【表1】J-DOIT3試験のPECO
(Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Dec;5(12):951-964より筆者作成)

  中央値で8.5年追跡した結果、本研究の一次アウトカムである心血管複合アウトカムの発症は、強化療法群で109人/1269人 (9%)、従来療法群で133人/1271人 (10%)と、強化療法群で少ない傾向にあったが、統計的な有意差を認めなかった(ハザード比0.81[0.63~1.04])。

  心血管アウトカムに明確な差が出ていないのであれば、なぜ本研究結果が推奨の根拠となったのだろうか。実は脳血管イベントというアウトカム単独で見ると強化療法群で有意なリスク低下が認められている(ハザード比0.42[95%信頼区間0.24~0.74] )

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【図1】J-DOIT3公式日本語ホームページより引用

  脳血管イベントは本研究の一次アウトカムではない。従って脳血管イベントが減るという結果は、検証された仮説ではなく、あくまで仮説生成的な結果である。一次アウトカムと複合アウトカムの問題については以下エントリを参照いただければ幸いである。

syuichiao.hatenadiary.com

 なお、本ガイドラインでは『根拠が単一のRCTであること、本来の研究目的が集学的糖尿病管理であり、糖尿病合併高血圧を対象としたものではないこと、降圧療法が全例に行われていないことなどを勘定し、推奨の強さを2、エビデンスの強さをBとした』との記載がある。

 観察研究(BMC Medicine201917:83.DOI:10.1186/s12916-019-1313-x)においては、厳格な血圧コントロールの必要性はそれほど高くない可能性が示唆されており、130mmHg未満にこだわるかどうかについては議論の余地があるかもしれない。

bmcmedicine.biomedcentral.com

■糖尿病合併高血圧における推奨薬剤
ARB、ACE阻害薬のみならずCa拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も推奨
▸ただし、微量アルブミン尿、あるいは蛋白尿を併存する場合はARB、ACE阻害薬のいずれかを推奨
 ・推奨の強さ2(弱く推奨する)
 ・エビデンスの強さB(中等度の確信がある)

 基礎研究レベルにおいて、ARBにはPPAR-γ(peroxisome proliferator-activated receptor-γ)を介したインスリン抵抗性の改善が示唆されている。

Schupp M, Janke J, Clasen R.et.al. Angiotensin type 1 receptor blockers induce peroxisome proliferator-activated receptor-gamma activity. Circulation. 2004 May 4;109(17):2054-7. PMID: 15117841

Schupp M, Clemenz M, Gineste R,et.al. Molecular characterization of new selective peroxisome proliferator-activated receptor gamma modulators with angiotensin receptor blocking activity. Diabetes. 2005 Dec;54(12):3442-52. PMID: 16306360

  こうした背景を踏まえれると、糖尿病合併高血圧ではARBやACE阻害薬などのRA系阻害薬が考慮できるようにも思える。しかし、本ガイドラインでは、ランダム化比較試験16件をメタ分析した結果、RA系阻害薬と他の降圧薬で、心血管疾患(リスク比0.93[95%信頼区間0.84~1.03])、心血管死亡(0.84[0.68~1.04])、総死亡(0.95[0.85~1.05])に関して明確な差がないことを明らかにしている。

  またこのメタ分析において、腎機能障害例におけるRA系阻害薬と腎機能障害をアウトカムとした解析でもリスク比0.91[0.77~1.06]と他の降圧薬と比べて有意な差を認めなかった。

 腎機能障害を伴う糖尿病合併高血圧に関して、本ガイドラインの解説部分においては『今回のSRでは明確な差異として示すことはできないが、微量アルブミン尿以上の腎機能障害を伴うRA系阻害薬の有用性は明らかである』として、RENAAL試験(PMID:12867233)やIDNT試験(PMID:11565517)をはじめ、8文献の引用されたうえで、ARBもしくはACE阻害薬が推奨されている。

 

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