思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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GLP-1受容体作動薬と糖尿病性網膜症リスクの関連

 心血管イベントリスクに対してポジティブな報告が続くGLP-1受容体作動薬ですが、セマグルチドの大規模臨床試験 SUSTAIN-6で示された網膜症リスク増加は、少なからず衝撃的でした。同研究において、硝子体出血、失明、硝子体内注射または光凝固治療を要する網膜症合併症のハザード比は1.76[95%信頼区間1.11~2.78]と、プラセボ群よりもセマグルチド群で有意に多いという結果が示されました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 とはいえ、示されたリスク増加はあくまで仮説ではあります。なお、英国のClinical Practice Research Datalinkを用いて77,115 例を解析したコホート研究では、GLP-1受容体作動薬と網膜症リスクに明確な関連性を認めていません。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 なかなか評価が難しいところですが、SUSTAIN-6の報告以降、GLP-1受容体作動薬のランダム化比較試験では、網膜症に関するデータを記載する論文が増えてきました。そこで、これまでに報告されている主要な大規模ランダム化比較試験のデータから、GLP-1受容体作動薬と網膜症リスクについてメタ分析(※)を行ってみました。

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 Studyの研究名左に記載している番号は【PMID】です。必要に応じて原著論文をご参照ください。random effect modelによるメタ分析の結果は、オッズ比1.10[95%信頼区間0.92~1.30]と、統計学的有意差を認めませんでした。異質性を示すI2統計量は53%、フォレストプロットをながめても、多少ばらつきがあるのかなという印象です。

 とはいえ、先日報告されたREWINDやPIONEER-6では、統計学的有意差を認めないものの、リスクは増加傾向にありました。GLP-1作動薬と網膜症リスクは、たまたまSUSTAIN-6で示されたものなのか、それともわずかながらも潜在的にリスクが懸念されるものなのか、今後の研究データを踏まえながら慎重に考察したいと思います。

 

 ※メタ分析はEZRを用いて解析を行いました。なお、EZRは自治医科大学附属さいたま医療センター血液科のウェブサイトより無料でダウンロードできます。また、EZRの使用法については、いくつか書籍が刊行されています。

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