なぜ、非劣性試験ではITT解析ではなくmodified ITT解析(FAS)で行われるのか?
先日、EBMの研修会で「非劣性試験ではなぜITT解析ではだめなの?」という質問に対して、「ITT解析では差が出にくくなるからです」と答えたは良いものの……。よくよく考えれば、「ITT解析」→「結果を過大に評価しない」→「つまり差が出にくい」→「信頼区間の幅が広くなる?」→「非劣性マージンを超えやすくなるよねぇ」→「非劣性は逆に示されやすいのでは???」となってしまいました(レクチャー中に錯乱状態です(汗 )
なぜ、非劣性試験ではITT解析ではなくmodified ITT解析(FAS)で行われるのか?冷静に考えてみると、やはり「ITTでは差が出にくくなるから」で間違いありませんでした。ただ差がないことに関して、考え方に注意が必要です。
メタ分析でも示されている通り、modified ITT(FAS)はITT解析に比べて結果を過大評価する可能性があります【1】。逆に言えば、ITT解析では比較対照群と介入群で差が出にくくなる傾向にあります。厳密なITT解析はFASやPPSに比べて保守的な解析などと言われるのはこのためです。
ただし、注意が必要なのは、この場合の「差が出にくくなる」ということは、臨床的な効果に差が出にくくなることを意味しており、統計的な有意差が出にくくなるということではないことです。つまり、ITTではPPSと比較して、研究結果に示される相対危険度とその95%信頼区間が「1」に近づくことを意味しており(絶対差であれば「0」)、信頼区間の幅が広くなる(有意差が付きにくくなる)わけではないのです。
下の表は狭心症患者を対象に、薬物治療と外科的治療を比較して死亡リスクを比較したランダム化比較試験【2】【3】の結果です。薬物治療群のうち、48人が外科的治療群へクロスオーバー、外科的治療群のうち20人が薬物治療群へクロスオーバーしています。
研究の結果は絶対差で示されていますので、「0」に近いほど効果サイズが小さくなります(ちなみに信頼区間が0をまたいでいれば有意差なし)が、PPSと比較するとITTで、95%信頼区間上限も含め効果サイズが小さいことが分かります。
また同様の結果は薬物療法どうしを比較した研究でも示されています。下の表はリバーロキサバンとワルファリンを比較して、脳卒中の発症リスクを検討したランダム化比較試験ROCKET-AF【4】の結果です。
PPSと比較してITTで相対危険が「1」に近いことが分かります。リスクの低下傾向、増加傾向に関わらず、95%信頼区間上限が1に近づくということは、それだけ非劣性マージンを下回る可能性が高いということです。したがって、PPSでは有意なリスク低下(優越性)もしくは有意なリスク増加が示されやすくなり、ITT解析では有意差があり/なしに関わらず非劣性が示されやすくなります。そのため、非劣性試験ではPPSもしくはmodified ITT(FAS)解析を行うことが一般的です。
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【参考文献】
【1】BMJ. 2015 May 27;350:h2445
【2】BMJ. 1999 Sep 11;319(7211):670-4.
【3】Lancet. 1979 Apr 28;1(8122):889-93.
【4】N Engl J Med 2011; 365: 883-91