思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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偶然的だが無制限に安定した法則は理論的に可能か? メイヤスーの思弁的唯物論を読む

 事物存在の絶対的な特性、つまり僕らが思考しようとしまいと、そうであり続ける特性をカンタン・メイヤスーは『事実性』と呼んだ。そしてメイヤスーは、世界のあらゆる事物は、それが従う法則とともに、そのすべてが、理由無しに存在していると主張する(無理由の原理)。すべての事物は、自然法則や論理法則も含めて、そうあるべき理由はなく、偶然的なものに過ぎないのだと。

『隠された必然性が密かにその結果を統御したのではないとすれば、私たちはただ一つの宇宙が、運=偶然によって、そのような可能的事象の集合から絶えず引き出されているということは、限りなくありそうにない(メイヤスー 亡霊のジレンマ p54)』

亡霊のジレンマ ―思弁的唯物論の展開―

 ヒュームが指摘するように、自然法則が帰納により論理的に正当化できないのなら、つまり自然の斉一性を証明できないのなら、世界は別様に変化しうるカオスである。自然法則は、たまたまその法則が安定的なしかたで維持されているに過ぎず、その安定性に必然的な理由はない。しかし、実際には必然的な物理法則があるように感じられ、僕たちの日常は帰納を前提に成り立っている。

  世界が別様に変化しうるのなら、なぜ物理法則は依然として必然性をまとっているように感じるのだろうか。運=偶然と偶然性との間の差異とはなんだろうか。偶然的だが無制限に安定した法則は理論的に可能か?

有限性の後で: 偶然性の必然性についての試論

 フランスの若き哲学者、カンタン・メイヤスーの思弁的唯物論。主著「有限性の後で」で描かれた世界、それはコペルニクス的転回ではなく、プトレマイオスの逆襲だった。