思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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【書籍】宇宙はなぜ哲学の問題になるのか

 混沌とした自然世界の中に、どのような意味やメッセージを見出していくのか、目に見える現象の背後に潜む規則性や概念に、どのような言葉を付与すれば良いのか……。科学も哲学もそうした営みの中で学問的発展をとげてきたのではないかと思います。人は自然世界の数学的法則をいかにして認識出るのか? という問いへの思索こそが哲学(認識論)の歴史ではないかと、そう思うのです。

 自然の数学化とはフッサールの言葉ですけど、数学化を目指したのはガリレオ以前にピタゴラスでしたし、ピタゴラスの思想からイデアという概念につなげたのがプラトンでした。以後、ホワイトヘッドによれば、西洋哲学は「プラトン哲学への脚注に過ぎない」というわけです。

 自然の数学化はある種の危機意識でしたけれども、今や自然科学的知見をないがしろにして哲学を探求することは不可能ですし、その逆もまた然りです。そんな哲学の歴史をたどる哲学の入門書が「宇宙はなぜ哲学の問題になるのか」という魅力的なタイトルで刊行されています。

宇宙はなぜ哲学の問題になるのか (ちくまプリマー新書)

 夜空に広がる無数の星々、その軌道に規則性を見出すことが困難な惑星、その背後に広がる宇宙空間。人は古来より、自然の大いなる力の源泉を解き明かそうと知的探求を続けてきました。しかし、客観的な事科学的事実、つまり知識だけでは、生活や社会に適用しうる知恵を得ることは困難であることが浮き彫りになってきます。そのような中で、知的探求は自然科学と自然哲学に分岐しました。

『哲学は科学なしには誕生しなかった。このことは間違いがありません。しかし、哲学は科学とは別の、独特な知的探求として考えられた。あるいはむしろ、科学の発展だけでは、知恵はえられないのではないかという反省から、哲学が生まれた (宇宙はなぜ哲学の問題になるのかp38)』

  自然を支配する統一的な力の源泉。そのメカニズムをどのような記号で翻訳すれば良いのでしょうか。哲学が明らかにしたのは翻訳の仕方の多様性でした。つまり、普遍的に妥当するように思われた科学理論も、価値や意味を記述する言葉と同じように、立場や文脈に応じて記述の可能性が異なるということです。

『人類が生み出した科学的知識の成果は、歴史的に見て必然的でも普遍的でもない、という発想が重要になるのです(宇宙はなぜ哲学の問題になるのか P226)』

  科学と哲学を架橋しながら、プラトン、カント、ウィトゲンシュタイン、そして科学哲学の源流までを描写していくスタイルは、これまでにない哲学の入門書と言えます。