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【書籍】『月刊薬事』2019年11月1日号  老年症候群の非薬物療法と薬物療法

 じほうさんの『月刊薬事』11月号の特集は ”発熱、脱水、便秘、誤嚥性肺炎…ここを確認! 老年症候群の非薬物療法薬物療法 です!

月刊薬事 2019年 11 月号 [雑誌] (特集:老年症候群の非薬物療法と薬物療法)

 本特集とは関係ないですけど、老年期の健康問題について、ちょうど先日、日経DIオンラインコラムに少しだけ書かせていただきました。その中でも少しだけ触れていますけど、従来の疾病概念は病気と健康の境界がわりと鮮明だったのに対して、高齢者における近年の疾病概念は、その境界が不明瞭だなという印象を受けます。また単一の「疾患」ではなく「症候群」的に状態をとらえる傾向にあり、その全体像が把握しづらいようにも思えます。

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 本特集のキーワードである「老年症候群」とは加齢に伴い高齢者に多くみられる、医師の診察や介護・看護を必要とする症状・徴候の総称のことです。老年症候群の症状および徴候は、実に50項目以上存在するといわれており、加齢に伴う健康問題をまさに「症候群」的にとらえた概念といえます。ちなみに、フレイルは老年症候群に含まれる症状・兆候の一つです。

 個人的には、老年症候群として取り上げられていた「腰痛」の記事に興味をひかれました。痛みは経験的に否定しがたい苦痛なので、症状があればそれを何とか緩和したいと思うわけです。症状緩和のためにどんどん薬が増えてしまうこともあり得る。時に副作用リスクに目をつぶりながらNSAIDsが長期投与されるケースも少なくないでしょう。

 腰痛が慢性化するリスクは多々知られていますが、社会心理的要因を挙げることができます(Spine (Phila Pa 1976). 2002 Mar 1;27(5):E109-20)。そして、もし仮に社会心理的要因によって、腰痛が慢性化しているのであれば、NSIDSのような薬剤投与で症状を緩和できるだろうかと、ふと思うわけです。むろん効果がないとは言いませんけれども、副作用やコストに見合うだけの効果があるのだろうかと、改めて問うことは有意義でしょう。

 実際、腰痛に対するアセトアミノフェンの効果はあまり明確ではありません(BMJ. 2015 Mar 31;350:h1225. PMID: 25828856)。そのような中で、”プラセボプラセボと知ったうえで服用することでも腰痛の緩和が期待できそう”という可能性を示唆したランダム化比較試験が報告されています(Pain. 2016 Dec;157(12):2766-2772. PMID: 27755279)。

 プラセボ効果が実在するか否かは別としても、社会心理的要因が健康状態に影響を与えることは多数の社会疫学研究で示されています。ポリファーマシーの解消という視点も大事かもしれませんが、個人的には健康の社会決定因子という視点からの非薬物療法に注目しています。