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交互作用と効果修飾因子-薬剤効果の非一様性をめぐる疫学的解釈

本記事は、メディカルサイエンスインターナショナル社の「アドバンスト分析疫学 369の図表で読み解く疫学的推論の論理と数理」第6章を参照しています。

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アドバンスト分析疫学 369の図表で読み解く疫学的推論の論理と数理

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アドバンスト分析疫学 [ 木原 正博 ]


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 交互作用とは、あるアウトカム(イベント)の発生に、複数の因子がお互いに効果を修飾しあう状況のことである。交互作用が生じるためには最低3つの因子、すなわち曝露アウトカム効果修飾因子を必要とする。

 交互作用は曝露とアウトカムの関連の一部、もしくは全体が曝露とアウトカムの両方に関連することによって生じる交絡の影響とは異なる概念である。なお交絡とは曝露とアウトカム以外の第3の要因によって、曝露とアウトカムの間に非因果的連関が生じる現象のことであり、このような現象を引き起こす因子を交絡因子と呼ぶ。交絡因子は曝露因子とアウトカム、双方に関連しているが、交互作用をもたらす効果修飾因子は曝露因子との関連性を有さない。

 ※交絡や中間因子については以下のnoteを参照

note.com

 交互作用の存在は、曝露とアウトカムの関連について、効果修飾因子(と疑われる因子)の有無で層別化して解析を行い、関連性の度合いが変化することによって確認できる。効果修飾因子の作用によって、曝露とアウトカムの関連が増強する場合、その因子と曝露は相乗的であり、正の交互作用をもたらす。他方で、曝露とアウトカムの関連が減弱するとき、その因子と曝露は拮抗的であり、負の交互作用をもたらす。

【曝露(介入)効果の非一様性】
 ある曝露の影響を受けたとき、アウトカムの発生のしやすさには個人差がある。薬を飲んでも効果は一様ではなく、人それぞれで異なるだろう。喫煙という曝露が与える健康への影響についても同様である。

 曝露の影響が一様でないということは、例えば、喫煙による肺がんの発症が偶然ではないと仮定したとき、肺がんの発症にとって、喫煙は十分条件ではないことを意味する。すなわち、肺がん発症にかかわる喫煙以外の何らかの別の因子が存在する。その因子は肺がん発症の必要条件を完成させることによって、あるいは喫煙性肺がんへの感受性を高めることによって、肺がんの発症を促す可能性がある。

 曝露とアウトカムの間に関連性がある場合、その関連が偶然、バイアス、交絡による影響を排除できるとき、因果的関連にあることが分かるが、交互作用の存在を排除できない。曝露とアウトカムの関連性を、ある因子(効果修飾因子)で層別化し、各サブグループ間でもなお、関連の強度が同じ場合に、その因子について交互作用の影響はないと判断できる。

 しかし、交互作用をもたらす効果修飾因子があらかじめ分かっているわけではなく、因果的関連として観察されるものであっても、常に交互作用の可能性を排除できるわけではない。つまり効果修飾因子と曝露を明確に区別することは難しいということだ。

 一般的には、介入できない要因(遺伝的要因など)を効果修飾因子予防、もしくは除去できる要因が曝露とされる。例えば、アポリポ蛋白ε4が認知症に対する頻回飲酒の効果を修飾することが報告されている。認知症と飲酒の関連はε4対立遺伝子保有者のみで生じるが、この場合、介入できない要因であるε4保有の有無が効果修飾因子であり、食事や飲酒などの変容可能な要因が曝露とされる。とはいえ、曝露とは「特定の状態」を意味する概念であるがゆえに、遺伝的要因と環境的要因で効果修飾因子、曝露と区分することもまた恣意的と言わざるを得ない。

【ランダム化比較試験にみる交互作用の検出】
一般的なランダム化比較試験ではアウトカムの発症を相対比で評価することが多いため、本稿では積算的交互作用の検出についてまとめる。積算的交互作用は曝露に対する発生率比が第3の因子によって変化する(非一様である)場合に存在するとみなされる。

 具体例を挙げよう。未治療の進行性肺腺癌を有する非喫煙者または元軽度喫煙者の患者を対象に、ゲフィチニブと無増悪生存率の関連を検討したランダム化比較試験が報告されている。

Tony S Mok, et al : Gefitinib or Carboplatin-Paclitaxel in Pulmonary Adenocarcinoma. N Engl J Med. 2009 Sep 3;361(10):947-57. PMID: 19692680

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 本研究において、被験者はゲフィチニブ(250 mg/日)投与群(609 人)、カルボプラチン(曲線下面積 [AUC] が 5~6 mg/mL/分となるよう計算された用量)、およびパクリタキセル(200 mg/m2)の併用投与群(608 人)に無作為に割り付けられている。この研究はランダム化比較試験であり、比較的症例規模が大きいことから、本稿では偶然誤差、バイアスの影響、交絡の影響は小さいものと仮定する(厳密には非盲検試験であるため、情報バイアスの影響は軽視できないが……)。

 12 ヵ月無増悪生存率は、ゲフィチニブ群 24.9%,カルボプラチン+パクリタキセル併用群 6.7%であった(ハザード比 0.74[95%信頼区間 0.65~0.85])。そして、本研究で注目したいのは無増悪生存のカプラン・マイヤー曲線が、追跡4~8か月の間で交差していることである。

Figure 2. Kaplan–Meier Curves for Progression-free Survival

 これはどの時間点においても、介入群と対照群のアウトカム発症比(この場合ハザード比)が一定であるという解析モデル(Cox比例ハザード回帰分析)の前提条件を満たしていない(比例ハザード性の仮定が成立していない)ことを意味する。任意の時点における生存率が両群で一定でないことの理由の一つには、ゲフィチニブの効果を強く受ける集団とそうでない集団が入り混じっていることがあげられる(効果の非一様性)。

 ゲフィチニブの効果を得られない集団は、カルボプラチン+パクリタキセル併用群と比べて、早期に死亡してしまうだろう。しかし、ゲフィチニブの効果を得られる集団ではカルボプラチン+パクリタキセル併用群と比べて、より延命される。両者を足し合わせた集団全体で観察すると、ゲフィチニブ群の生存率が、研究開始早期ではカルボプラチン+パクリタキセル併用群を下回り、ある時点でカルボプラチン+パクリタキセル併用群を上回るという状況が観察される。これがカプラン・マイヤー曲線が交差する理由の一つと考えられる。

 本研究では明確なサブグループが存在していたことが明らかになっている。上皮成長因子受容体遺伝子(EGFR)変異陽性患者 261 人のサブグループにおいては、無増悪生存率がゲフィチニブ群のほうがカルボプラチン+パクリタキセル併用群より有意に高かった(増悪または死亡のハザード比 0.48[95%信頼区間0.36~0.64])一方で、変異陰性患者 176 人のサブグループでは、無増悪生存率はカルボプラチン+パクリタキセル併用群のほうが有意に高かった(増悪または死亡のハザード比 2.85[95%信頼区間2.05~3.98])。この場合、EGFR変異が効果修飾因子として研究結果に影響を与えていたことになる。

【疫学的研究で捕捉できる交互作用の限界】
 生物科学の分野では、交互作用は因果関係のメカニズムと深く関連しているが、疫学的研究で観察される交互作用から生物学的メカニズムを推論することには限界がある。疫学で捉えることができるのは、ほとんどがマクロな関連であり、一般的には動脈硬化症や悪性新生物など多くの慢性疾患が生じる長い因果連鎖の過程が考慮されていない。

 この因果連鎖においては、多数の因果因子が積算的もしくは加算的に相互作用し、それによって、疾患の発生・進行にかかわる初期のプロセスの複雑な因果関係が構築される。疫学ではこのような病的連鎖における生理学的、解剖学的な細胞異常をとらえたり、記述することができないため、扱えるアウトカムが限られ、交互作用の解釈に限界をもたらす。

【交互作用の解釈】
 非一様性は効果修飾因子と考えられている因子で層化するとき、偶然誤差によって生じることもある。偶然誤差は多数のサブグループ解析による多重検定の問題ともいえる。解析サブグループを増やすことで偶然に検出された有意な差を、交互作用と誤って解釈してしまうことはありうる。被験者集団をサブグループによって細かく層別化すればするほど、各層のサンプルサイズは小さくなり、偶然による非一様性が生じやすくなる。

 また、曝露とアウトカムの関連を、効果修飾因子を疑っている因子で層別化した場合、その層間で交絡の影響が異なるために非一様性が観察されることもある。例えば、コーヒーの摂取(曝露)とがん(アウトカム)の関連を症例対照研究で検討し、性別で層別化して解析を行ったとしよう。また、女性の症例群(がん発症群)と対照群が全員非喫煙者で、喫煙とコーヒー摂取が正の関連性を有しているとする。

 すると、男性では対照群に比べて症例群(がん発症群)で喫煙者の割合が高くなってしまう(男性では喫煙者が多く、喫煙者はコーヒーの摂取が多いため)。この場合、女性ではコーヒーの摂取とがんの関連に喫煙による交絡の影響は小さいといえるが、男性では交絡が生じてしまう。この場合、女性よりも男性でがんのリスクが高く観察されてしまうが、この非一様性は、喫煙による影響が男性のみで存在しているために生じる。

【選択バイアスと効果修飾因子】
 正の交互作用が存在する場合、曝露(介入)がアウトカムに与える影響は強くなる。例えば生存や予後を改善するような曝露(介入)を検討する前向き研究において、曝露(介入)の恩恵を受けることができなかった人は研究から脱落していくかもしれない。つまり、最終解析に残される集団は効果修飾因子を有する人の割合が高いことになり、研究結果の外的妥当性が損なわれる。

 これは曝露が有害な影響をもたらす場合についてもいえる。研究から脱落するのは曝露の影響を強く受ける効果修飾因子を有する集団であり、最終解析に残された集団は効果修飾因子を有さない集団に偏る可能性がある。研究結果の一般化においては、効果修飾因子の分布の違いも考慮する必要がある