思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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【書籍紹介】人生の最終段階における薬の使い方&緩和ケアー月刊薬事 2020年10月臨時増刊号

 近年、スタチン系薬剤に関するエビデンスはかなり充実してきており、一部の論文では高齢者においてもその使用が考慮できる可能性が示されています( Lancet. 2019 Feb 2;393(10170):407-415. PMID: 30712900)。むろん、否定的なエビデンスも少なくありませんが、余命の限られた高齢者において重要なのは、寿命が尽きてしまう前にスタチンの心血管疾患に対する予防効果を享受できるかという視点でしょう。そのような中でJAMA Intern Med誌に興味深い論文が掲載されました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 この論文では主要なスタチンの大規模臨床試験8研究(解析対象65383例)のメタ分析を行い、スタチンの心血管疾患予防効果が得られるまでの期間(time to benefit)を検討しています。解析の結果、心血管疾患について治療必要数(NNT)が100人の効果を得るまでに2.5年かかることが示されました。

 日本人におけるスタチンの心血管疾患予防に対するNNTが119人(Lancet. 2006; 368: 1155-63.)であることを踏まえれば、少なくとも余命が2年半に満たない人では、スタチンの役割が限りなく小さくなっていることを示唆します。

 薬の役割は、患者さんの身体症状のみならず、年齢によっても変化していきます。とりわけ、スタチンのような重篤な合併症を予防するための薬は、その役割の変化が顕著と言えます。予防的な薬は、例えば鎮痛薬や睡眠導入剤のような対症療法で用いられる薬剤と異なり、将来的な健康リスクを低減するために用いられる薬です。そのリスクが変われば、薬の必要性も大きく変わるわけですが、リスク変容の最大のファクターが加齢です。したがって、人生の最終段階では、薬の使い方や考え方は、病状初期とはまるで異なってくるのです。

 前置きが長くなりました。じほうさんの月刊薬事10月号の臨時増刊号が発売されています!そのタイトルはまさに『人生の最終段階における薬の使い方&緩和ケア』

高齢多死社会に向けて知っておきたい 人生の最終段階における薬の使い方&緩和ケア2020年10月号 [雑誌]: 月刊薬事 増刊

 人生の最終段階における薬物療法はこれまでがん患者における緩和ケアが中心的な扱いだったように思います。しかし、死因が多様化する昨今、人生の最終段階は必ずしもがんとは限りません。本書では、終末期の薬物療法や薬学管理について、疾患・症状別に整理されており、病期に応じた薬の役割を考察するあたり、とても実践的な内容となっています。なお、本書の概要や目次は、じほうさんの公式ウェブサイトから閲覧できます!

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