臨床疑問のゆくえ
〔事柄的存在物の解釈〕
同じ映画や同じ本を読んでも、その感想は人それぞれ異なることはむしろ普通だと思います。同じ文章や映像を見ても、その捉え方、考え方は人それぞれです。全く同じように認識されるのであれば、基本的には人間同士で争いなど起きないでしょう。
リンゴを見て、みかんだ!と言う人は少ないかと思いますが、小説を読んで、すべての人が面白いと感じるわけではありません。この違いはとても興味深いとは思いませんか?
僕たちが認識するその対象は大きく2つに分けることができます。それは実際に身近でその存在を確信できる実在物、つまり実体的存在物と、いわゆる事柄的存在物です。リンゴが今目の前にあったとして、それがリンゴだと多くの人が共通了解を得ることができるのは、僕たち人間が同じ視覚システムを有しているからに他なりません。一方で小説の内容は、実体的にこの世界のどこかに存在するわけではありません。小説そのもの(つまり本)は実在物ですが、その内容(書かれている事柄)はこの世界に存在するというよりは、僕たちが文章を読むことで受け取るイメージ、解釈というような主観的なものでしょう。
〔EBM実践の壁を乗り越えるための論文抄読会〕
実体的存在物は共通了解が得られやすいのに対して、事柄的存在物は多くの場合で共通了解が得られないことがあります。EBM実践におけるステップ③~④、臨床医学に関する論文を読んで、その結果をどう解釈し、どう活用して行くのか、これについても同様でしょう。もちろん論文結果に対する普遍的な回答なるものを求める、ということじゃありません。
「論文の結果をどう活用して良いかわからない」というような話をよく聞きます。一人で論文を読んでいても、自分の読み方に自信がない、あるいはこの結果を自分の立場でどう活用したらよいかよく分からない。これはEBMを実践するうえでも大きな壁の一つと言えましょう。このような状態が続くとモチベーションが低下し、論文を継続的に読むという行為すら行えなくなる恐れがあります。
このような壁を乗り越えるための方法の一つが論文抄読会です。論文を複数の人間で読みながら、その結果の解釈や実際の活用を議論して行く。様々な視点から論文を考察できるのが抄読会の強みであり、その解釈、活用法はむしろ多様性を帯びます。一つの論文から生まれる様々な解釈こそが大切なのです。一つの答えにとらわれず多面的に考察して行く。
実臨床では多面的な視点から臨床判断せねばならないことを踏まえると、仮想症例を用いたEBM型抄読会は、学びのスタイルとしてとても有用だと思います。しかしながら多忙な日常業務の合間に、複数の医療者が集まって論文を読み込む作業はなかなか難しいこともあるでしょう。そんな第2の壁を乗り越えるべく、インターネットを活用したEBM型抄読会の取り組みがあります。
〔薬剤師のジャーナルクラブ〕
薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIP)は臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、ソーシャルネットワーク上で構築したEBMスタイル教育プログラムです。詳しくはこちらをご参照ください
週刊医学界新聞 第3084号 薬剤師のジャーナルクラブ
インターネット上でのEBM学習の場を提供する試み
医学書院/週刊医学界新聞(第3084号 2014年07月14日)
概要を図式化するとこんな感じです。
3名のコアメンバーがスカイプ通話で論文抄読会を行い、その会話内容をツイットキャスティングで全国配信しています。ツイキャスのコメント投稿機能を使って、配信視聴者はリアルタイムでコメント投稿をすることができ、能動的な抄読会参加が可能となります。薬剤師のジャーナルクラブ最新情報は公式フェイスブックページで発信しております。次回抄読会は2016年1月31日(午後21時スタート)を予定しております。是非、ご参加ください!
実はこの取り組み、EBMスタイル教育プログラムのエビデンスづくりも、そのプロジェクトの一環としており、研究、学会活動も行っています。現段階では学会発表のみですが以下の実績があります。
薬剤師のジャーナルクラブ~インターネット上でEBM学習の場を提供する取り組み~(J-GLOBAL ID:201402223485553356)
薬剤師のジャーナルクラブ~インターネットを活用したEBMスタイル教育プログラムの有用性~(J-GLOBAL ID:201502204847686566)
さてそんな薬剤師のジャーナルクラブですが、この度、株式会社南山堂さんの薬剤師向け季刊誌「レシピ」とのコラボレーション企画が始まります。
〔臨床疑問のゆくえ〕
この企画は、ジャーナルクラブ抄読会中のディスカッション内容を紙面に言語化したものです。薬剤師のジャーナルクラブに参加したことがあり方も、そんなもん知らねえよ、という方も是非読んでいただけたら嬉しいです。
レシピはAmazonでも購入できるようです。
レシピプラス Vol.15 No.1 サラッと納得!経口抗凝固薬
- 作者: 谷口洋貴,稗田道成,浅井考介,柴田奈央,浜田康次,佐道紳一,安藝敬生,山田和範,青島周一,桑原秀徳,山本雅洋,澤田覚志
- 出版社/メーカー: 南山堂
- 発売日: 2016/01/18
- メディア: 単行本
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今回のテーマは抗凝固薬。表紙のデザインもなかなかおしゃれです。「サラッと納得!」シャレもきいていますねぇ。
臨床疑問のゆくえでは、論文の読み方をより詳しく解説するというよりは、論文の使い方、つまりEBMのステップ①で立てた臨床疑問に対して、論文情報をどう活用して行くの~?というその”ゆくえ”を重視してみました!是非、読んでいただけたら嬉しいです。
いつも薬剤師のジャーナルクラブに参加してくださる皆様、本当にありがとうございます。共同主宰者である桑原秀徳先生、山本雅洋先生、いつもお世話になっています。今後ともよろしくお願いいたします。そして南山堂レシピ編集部の皆様、貴重な機会を誠にありがとうございます。臨床医学論文をもっと身近に、読者の方にそう感じていただけたらこれほど嬉しいことはございません。