思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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NDBオープンデータから垣間見る薬剤使用の現実

『第1回レセプト情報・特定健診等情報データベースNDBオープンデータ』厚生労働省のホームページに公開されている。

www.mhlw.go.jp

 公表データは医科診療報酬点数表項目、 歯科傷病、 特定健診集計結果、 薬剤データから成る。薬剤師としては、是非薬剤データ部分は一度見ておきたい。このデータから様々な考察ができそうだ。薬剤データは平成26年4月~平成27年3月診療分の集計となっている。使用量は薬価収載の基準単位に基づき、薬効別に処方数の上位30位を紹介しており、処方数ではないことに注意したい。つまり、1日用量が異なる薬剤同士の比較はできない。とはいえ、処方動向を把握するには非常に貴重なデータとなっている。本稿では『内服外来(院外性年齢別薬効分類別数量』のデータに基づき、ARB、スタチン、DPP4阻害薬、抗菌薬の使用量と若干の考察を加える。

ARBの使用実態]

(図1)はARB単剤の使用量をグラフで示したものである。使用量を感覚的に比較できるように、ACE阻害薬のタナトリルとアムロジピン製剤を加えてある。なお上位30位に入っていたACE阻害薬はタナトリルのみであった。KYOTO HEART Study、Jikei Heart Study.の論文データのねつ造が発覚し、一連の騒動を引き起こしたディオバンは未だ処方され続けている事が分かる。その量も決して少なくない。結局のところ、論文情報など全く活用されていない現実があるということが明確になっている。

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 (図1)ARBの使用量

[スタチン]

スタチン系薬剤ではクレストール2.5㎎錠の使用量が最多であった。高齢になるほど、予防的効果が相対的に小さくなるスタチンであるが、女性における、クレストール2.5㎎錠の年齢別使用量を見てみると、そのピークは70歳~74歳である。(図2) 

また、80歳前後の患者においてもかなりの量が使用されていることが分かる。一次予防か二次予防か、その使用目的は分からないが、80歳を超える高齢者に対するスタチン系薬剤の実効性はそれほど大きくはないはずであるが、現実的には大量の薬剤が消費されている。

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(図2)クレストール錠の年齢別使用量(女性)

[DPP4阻害薬]

糖尿病治療薬ではメトグルコ250㎎の使用量が最多でエクア50㎎ジャヌビア50㎎と続く。(図3)は女性におけるジャヌビア50㎎の年齢別使用量である。スタチンと同様高齢者でも処方量は多く、そのピークはやはり、70歳~74歳である。そもそもDPP4阻害薬の心血管イベント抑制効果は不明であるが、この年代以降の薬剤投与において、予防的効果の恩恵を受けることができる人は相当程度少ないのではないだろうか。

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(図3)ジャヌビア錠の年齢別使用量(女性)

[抗菌薬]

抗菌薬については1日使用量が薬剤ごとに異なる場合があるので単純に比較できないことに注意したい。とはいえ、(図4)を見れば、フロモックスの使用量は突出しているのは明らかだ。セフカペンピボキシル全体で見れば、その使用量は桁外れに大きい。また、クラリスに関しては1日使用量が2錠である事を踏まえれば、相当量の薬剤が使用されていることがうかがえる。適用疾患についてはこのデータからは分からないが、いずれの薬剤も、外来のセッティングで積極的に使用すべき状況は想定しがたい。しかしながら、現実の医療はこうした薬剤がひたすら使用され続けているという実態が明らかになっている。

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(図4)抗菌薬の使用量

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