ベンゾジアゼピン系薬剤をどう考える?~「これで解決!ポリファーマシー」~
日経DIオンラインで連載している僕のコラム、『これで解決!ポリファーマシー』が更新されました。
今回はベンゾジアゼピン系薬剤のお話です。ベンゾジアゼピン…というとどんなイメージがあるでしょうか。なんとなく効果もありそうだけど、副作用も多いとか、依存がある、とか…いろいろありますが、イメージだけでは、その薬について知ったことにはなりませんよね。有効性はどの程度あるのだろうか、どんな副作用がどの程度、懸念されるだろうか、こうしたことをエビデンスを踏まえて定量的に知っておく必要があります。
ベンゾジアゼピン系薬剤の効果、と言っても人それぞれだと思います。僕たち薬剤師からすれば、寝つきを良くする、あるいは中途覚醒を減らす、なんていうことが思い浮かびます。しかしながら、患者さんからすれば、“睡眠時間を十分にとることで、日中の眠気を無くせる”と言うような視点もあったりするわけです。ロルメタゼパムでは短期的にではあれ、そうした効果が高齢者においても示唆されていたりします。
また、高齢者では不眠も転倒の独立したファクターという指摘(J Am Geriatr Soc. 2000 Oct;48(10):1234-40. PMID: 11037010)もあって、平均的な睡眠時間を確保できると言うのは結構大切なことかも知れません。
[高齢者におけるベンゾジアゼピン系薬剤の使用傾向]
我が国におけるベンゾジアゼピン系薬剤の処方動向は高齢者(65歳以上)と非高齢者(65歳未満)で異なった傾向を示すようです。厚生労働省が公開しているNDBオープンデータを解析してみますと、高齢者では、長短時間~短時間型のベンゾジアゼピンが多く処方されている傾向にあるかもしれません。
このデータはNDBオープンデータから、外来処方のデータを用いて、薬効分類「催眠鎮静剤,抗不安剤」の薬剤を解析したものです。なお睡眠障害に適応のないグランダキシン、年齢別データの記載がなかったベンザリン、ベンゾジアゼピンではないフェノバールを除いで解析しています。年齢人口で補正していないので、非高齢者と高齢者の比較検討をすることは難しいですが、薬剤間での相対的な関係を把握するには何とか使えそうです。
長時間型ベンゾジアゼピンは高齢者において、日中の傾眠から転倒、骨折リスクにつながる恐れもあり注意が必要ですが、処方傾向はそうした背景をある程度、反映しているのかもしれません。
[ベンゾジアゼピンは“悪”なのか]
確かにベンゾジアゼピン系薬剤は多数の有害事象報告があり、また常用量依存という観点からも公衆衛生上の問題として、その漫然使用は軽視できませんね。とはいえ、「ベンゾジアゼピン=悪」と捉えると、週刊誌で取り上げられるような医療否定論とあまり変わらなくなってしまいます。僕が考える医療者としての立ち位置としては、以下の4つです
患者さんがベンゾジアゼピン系薬剤の効果に対して、どの程度関心を有しているだろうか。
睡眠時間をあらためて調べてみると、実際には平均的な睡眠時間を取っているにも関わらず、患者さんが寝れていないと感じることはありますね。不眠と睡眠欲求は別問題ではあります。ただ、薬剤があると安心、というような患者さんの思いもあり、なかなか難しいところですよね。
ベンゾジアゼピン系薬剤で懸念される有害事象に関しては、他にも類似の有害事象を引き起こすような薬剤が投与されていないだろうか。
例えば抗コリン作用を有する薬剤であれば認知機能障害のリスクがありますし、降圧薬であれば転倒、骨折リスクの懸念もあるわけです。なにもベンゾジアゼピン系薬剤だけが、有害事象リスクを有しているわけではありませんよね。潜在的なリスクの評価という視点も肝要でしょう。とはいえ常用量依存と言うのはベンゾジアゼピン系薬剤の特異的な問題かもしれません。必要に応じて処方の適正化が求められるところでしょう。
そもそも懸念される有害事象は目の前の患者にとって重要な臨床問題なのだろうか。
寝たきりであれば転倒リスクの懸念は少ないでしょう?また既に認知症が進行してしまった患者さんにおいて、認知症発症リスクが問題となることは想定しにくいですね。
必ずしも優先的にベンゾジアゼピン系薬剤を中止しなくても良いかもしれないという可能性も含めて様々な選択肢を模索すること
様々な選択肢を医師や患者さんに提供できること、まずかここから始めると良いかもしれませんね。
[処方提案は難しい?]
僕のコラムを読んだ人の多くは「こんな処方提案なんてできないなぁ」という印象を抱くかもしれません。実際問題、薬剤師の立場では、なかなか医師に提案することが難しいということも良く分かります。でも、一人の患者さんの薬物療法について真剣に悩んで、あれこれ考え、様々な代替案を用意し、それを医師に提案していくことは薬物療法の専門家たる僕たち薬剤師の仕事だと思うんです。僕にもできていない部分は多々あり、今後の課題だらけではあるんですけどね…。
ただ、真剣に悩んで、真剣に提案してみる、そんな思いを決して医師は否定しないはずです。「この処方、ここが問題です!」というスタンスでは、相手がだれであれ、反感を買うでしょう。そうではないのです。問題かどうかは、それを問題にした本人の問題であって、本当の問題は、処方薬そのものではありません。大事なのは、むしろ問題化しないことであり、医師(あるいは患者)との連携のきっかけとすることなんです。
しっかり連携していくには、エビデンスを踏まえて薬剤師としての意見をもつこと、それも様々な価値観に対応できるような選択肢を提供できること、それが薬物療法の専門家ではないかと僕は思うんです。
「壁」というのは自分で作り出してしまうものです。まずは行動してみてはいかがでしょうか。医師も実は一人で悩んでいる、そんなお話を聞きましたよ。
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