思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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小説を書いてみて気が付いた”学びのカタチ”

小説と言うと、純文学や大衆文学のようなものを、文庫本なり単行本なり紙の本でじっくり読むもの、というイメージを持っている方も多いと思います。しかしながら、現在の小説という概念は、10年前のそれと、かなり異なっているよう思います。それはむしろゲームやアニメーションと同じカテゴリに属するエンターテインメントであり、スマートフォン端末を使ってウェブ上で手軽に楽しめるものになりつつあります。こうした動きは「小説家になろう」や「カクヨム」といった小説投稿サイトを実際に使ってみると明らかです。

 

そんなわけで、僕も小説なるものを書いてみました。

kakuyomu.jp

この小説は「機械と心」というテーマを中心課題として取り上げました。本ブログの過去記事

syuichiao.hatenadiary.com

で考察した内容について、物語の主人公の視点から、うまく言葉にできたような気もしています。ただ、読み返してみると、荒削りな部分文体やエピソード、設定も多く、日常の風景をコトバで記述することの困難さをあらためて知りました。

 

自分が創作した言葉を、オープンにするというのは、なかなか恥ずかしいものです。よほど自信がないと、おおっぴらに公開することが難しい。少なくとも僕にとっては。でも、「君の名は」などのアニメーション作品を世に送り出した映画監督、新海誠さんの言葉には妙に納得させられます。

 まずは、どんなものでも世に出すことが大事だと思うんです。そのためには、プライドは捨てたほうがいい。

やはり、どんな駄作でも、世に出さないと、いつまで経っても作品など生まれないのだなぁ、なんて思います。

 

[変わりゆく小説の在り方]

今回小説を投稿してみて印象深かったのですが、小説投稿サイトには膨大な量のテキストが常時ネットに投稿されている事態がおきています。当たり前なのかもしれませんけど、その投稿量は、想像以上に莫大なものです。そして、サイトの利用者自身が、それぞれの作品を評価していく。ここにはいわばユーザー生成型の基本的な構造が見て取れます。

サイトを利用するユーザーは自分の書きたい小説を自由に書き投稿する。その評価は、他のユーザーの閲覧数、つまりネット上の投稿された作品のページビュー(PV)や、ブックマーク数、コメント等で評価さていきます。そして評価が非常に高い作品は実際に書籍化され、映像化され、その作者は作家としてデビューします。

そして、ここには権威性というものが存在しません。作品を作り、公開し、評価し、それがリアルな世界における文化的価値を作り出す。この潮流を作るのはすべてサイトを利用しているユーザーであり、そこに付与される価値もユーザーが産み出したものです。

[権威ではなくユーザーが世界を変える]

カクヨムのSF作品の中でも累計PVが100万をこえる、柞刈湯葉さんの横浜駅SF」は、KADOKAWAより書籍として出版されています。

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

また、小説家になろうに投稿された住野よるさんの君の膵臓をたべたいは書籍化のみならず、映像化までされました。

君の膵臓をたべたい

こうした流れは、今や小説業界だけでは無いように思います。動画投稿サイトのユーチューブや、写真を気軽に投稿できるインスタグラム、テキストだけでなく、絵やサウンドなども投稿可能なnoteなど、ユーザー生成型のプラットフォームは、今やブログメディアだけではありません。インターネットの普及により、個人が権威に全く依存しない仕方で自分の創作活動を行い、評価を受けることができる、そんな時代なんです。

 

[これからの学問の”かたち”]

では学術分野においてはどうなのでしょうか。有用な情報はどのように発信され、どのように評価され、どのように活用されているか。学術分野においては、おそらく小説や音楽、映像などの娯楽分野と異なり、かなり閉鎖的な状況と言わざるを得ません。

自分で研究した論文を、インパクトファクターの高い専門誌に投稿するか、自分のブログメディアに掲載するか、と考えてみたときに、ブログに研究データを掲載する研究者はまずいません。これは論文の読み手、つまり自分を評価してくれるであろう他者の価値基準がどこにあるのか、ということを意識せざるを得ないからです。つまりコンテンツの内容とは別に、プラットフォームに価値を置いているのが、この学術分野の世界であり、価値の背後にはやはり”権威”の存在があることは明確でしょう。

もちろん学問と娯楽を同じ価値基準で議論することに異論はあるかもしれませんけど、時代はユーザー生成型という流れに傾きつつあります。実際、医学・薬学に関する専門書でも、ブログから生まれた書籍は数多く存在しますし、僕自身もそういうスタイルで本を世に出しました。

今回小説を書いてみて、このことに気付けたのはとても大きな収穫でした。小説と権威と学問の”かたち”について、少し頭を整理しながら地域医療ジャーナルに投稿したいと思います。

cmj.publishers.fm

 

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note.mu

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