思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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一番強い痛み止めはどれですか?やっぱりロキソニン®ですか?

ドラックストアに勤務していると「一番強い痛み止めはどれですか?」と効かれることも多いでしょう。市販されている解熱鎮痛剤は同じブランド名でも複数の製品が存在して、その中からどれが一番効く薬なんだろうってお客さんも必死なわけです。(そうでもないかもしれませんけど)そんな時、僕ならこう答えます。

「鎮痛作用の違いを薬の効き方から説明することはできますが、実際の鎮痛効果の感じ方を説明するのは難しいんです。効き方は人それぞれなので。一般的には効果に差はないと考えても良いと思います。でも人によってはこの薬は効く、この薬は効かない、という事はあります。普段何かお使いの鎮痛薬はございますか?」

この質問の答えによっては、まあ、言い方は悪いですけど、適当に選んだりします。個人的にはタイレノール®(アセトアミノフェン)を勧めることもありますかね。

 

さて、ごく一般的な認識として僕が感じるのは、市販されている鎮痛薬で一番効き目が強いと感じているのは、多くの場合で「ロキソニン®(ロキソプロフェン)」であるように感じますし、実際、医療現場でも非常によく処方されている薬剤ですよね。今回はこのロキソプロフェンの処方実態と、その実際的な薬剤効果についてまとめていきます。

 

[ロキソプロフェンはどのくらい処方されている?]

少し古い研究なので現状を反映しているか分からない部分もありますが、東アジア6カ国の医師1568名を対象とした横断調査で、NSAIDSの処方動向を検討されています。

Digestion. 2009;79(3):177-85. PMID: 19342858

その結果、非選択的NSAIDのうち、第1選択肢として最も頻繁に処方された薬剤はロキソプロフェン(34%)であり、それは主に日本で処方されていたと報告されています。なお、その後にはジクロフェナク(30%)が続いているようです。

これは臨床現場の感覚とあまり違和感のない結果であり、やはり、わが国では非常に多くのロキソプロフェンが処方されていて、国民の認知度も高いものと思われます。こうした認知度の高さが、市販薬の売り上げにも少なからず影響を及ぼしていることは間違いないでしょう。

 

[実際の効果はいかほど?]

 2016年にロキソプロフェンに関するレビュー論文が報告されています。

Clin Drug Investig. 2016 Sep;36(9):771-81. PMID: 27444038

この論文によれば、経口のロキソプロフェンは、術後疼痛においてはセレコキシブと、変形性膝関節症においてはイブプロフェンと、また腰痛においてはナプロキセンと明確な差異はないとしています。

 また、変形性関節症患者を対象とした2重盲検ダブルダミー多施設研究において、ロキソプロフェンパップ製剤1~4週間の治療は、全体症状改善、筋肉痛、外傷誘発腫脹および痛みについて、経口ロキソプロフェンに非劣性だったとしています。

さらにロキソプロフェンパップは、変形性膝関節症患者、または筋肉痛を有する患者を対象とした非盲検化試験で、ケトプロフェンやインドメタシンパッツプに2~4週間にわたり、非劣性であっとしています。

簡単にまとめると……

■鎮痛効果において、ロキソプロフェンはセレコキシブ、イブプロフェン、ナプロキセンと大差なし。

■ロキソプロフェンパップ製剤の鎮痛効果は経口ロキソプロフェン、ケトプロフェンパップ、インドメタシンパップと大差ない。

この論文はフルテキストで読めないのが残念なところですが、レビューされていた研究はおそらく以下のものと思われます。いずれの研究でも非劣性が示されており、両者に著明な差はないと言えそうです。

 

変形性関節症患者におけるパップ製剤と経口製剤の比較(ランダム化比較非劣性試験)

Clin Rheumatol. 2016 Jan;35(1):165-73. PMID: 24924603

脊髄手術後患者の術後疼痛に対するロキソプロフェンナトリウムおよびセレコキシブの比較(非劣性ランダム化比較試験)

J Orthop Sci. 2015 Jul;20(4):617-23. PMID: 25911562

 

[消化器系の副作用はどうなの?]

とはいえ、潰瘍の発現率はセレコキシブに比べてロキソプロフェンで高いと言えるかもしれません。セレコキシブ、ロキソプロフェン、プラセボの3群を比較したランダム化比較試験によれば、胃十二指腸発生率はセレコキシブ、ロキソプロフェンおよびプラセボ群でそれぞれ1.4%、27.6%および2.7%でした。(P < 0.0001 in favour of the celecoxib group)

f:id:syuichiao:20170327222526p:plainAliment Pharmacol Ther. 2013 Feb;37(3):346-54. PMID: 23216412より引用

このあたりはやはり、COX-2選択制薬剤に大きなアドバンテージがあるように思われます。

Aliment Pharmacol Ther. 2013 Feb;37(3):346-54. PMID: 23216412

 

[腎機能への影響は?]

NSAIDSは腎機能に影響を与える薬剤として有名ですけど、ロキソプロフェンに関しては報告が限定的です。著明な蛋白尿を有する2型糖如病患者で、なおかつ膝もしくは腰痛患者20名を対象にロキソニンパッチ製剤100㎎を1日24時間、5日間連続使用で腎機能への影響を検討した非盲検化のシングルアーム試験が報告されています。

Clin Exp Nephrol. 2014 Jun;18(3):487-91PMID: 23921417

その結果、血圧、GFRまた尿中のプロスタグランジンE影響を与えることなく、VASの痛みを改善したという結果になっています。代用のアウトカムであり、研究デザイン的にもエビデンスとしては弱いですが、外用製剤と経口製剤の鎮痛効果が同等ならば腎機能が低い人にはパップ製剤やテープ製剤を用いたほうが良いように思われます。

 

[まとめ]

本邦においてロキソプロフェンは非常に処方頻度が高いと言えるかもしれませんが、その実効性は他のNSAIDsに比べてとりわけ優れているわけではありません。また外用製剤も経口製剤もほぼ同等の効果と言えそうです。腎機能が低いと思われるような人には、腎臓への負担の観点から、経口製剤ではなく、外用製剤を推奨するのも選択肢の一つでしょう。

 

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