「薬局薬学」という名のテクスト:『薬局で使える実践薬学』
文章を書くというのは、あれやこれやと、様々な情報を網羅して、その完成度を高めていく、そんなふうに考えている人もおられるでしょう。つまり、情報を一つ一つ積み上げながら、文章の全体が構築されていくという仕方で。
しかしながら実際に文章を書いていると、そういう事ではないと感じることが多々ある。一つの文章を書くということは、情報を積み上げるのではなく、あらかじめ膨大な情報をストックして、それを解体する作業に近い。
その解体作業の中で情報を取捨選択し、自分なりの文脈を作る。自分なりの理論を編み上げる。そうして一つの文章ができる、僕はそう思う。つまり、書き手は著者であると同時に編集者でもあるのだ。そう、それはエディター。
「薬局薬学」という名のテクストが、一人のエディターにより生み出された。そのタイトルは『薬局で使える実践薬学』
日経ドラックインフォネーションコラム「薬局にソクラテスがやってきた」でおなじみ、山本雄一郎氏による著作である。本書は同連載の書籍版という位置づけだ。
本書はテクストから情報を得る、そういう事じゃないんだ、という書き手の意志が伝わってくる。もちろん、本書に掲載されている情報は、それだけで価値のあるものだ。でも、さらに価値を高めているもの、それは、情報のエディットの仕方と言えるだろう。
山本雄一郎氏は本書の「はじめに」でパスカルの言葉を引用している。
「私は何も新しいことは言わなかった、などとは言わないでもらいたい。内容の配置が新しいのである」
「知識」というのは、ここまで学べばいい、というような到達点があらかじめ分かる仕方で設定されていない。だからこそ、学び続けることとの大切さ、面白さを知る必要がある。情報をエディットし、テクストを知識として提供すること、そこにはある種のエンターテインメント性が求められる。
本書にはそうした、学びの楽しさが詰め込まれている。ここから始めればいい、そうした安心感のようなものが読み手に伝わってくる。何を学べば良いか、どこから始めたらよいか、分からないでいる薬剤師へ、是非お勧めしたい一冊である。