抗うつ薬中断症候群(Antidepressant discontinuation syndrome)について
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抗うつ薬の投与中止にともなう離脱症状として、抗うつ薬中断症候群(Antidepressant discontinuation syndrome)が知られている。主な症状として、めまい、ふらつき、頭痛、吐き気、不眠症、電撃の感覚などその症状は多様である。[1] [2]
(抗うつ薬中断症候群の主な症状:J Can Acad Child Adolesc Psychiatry. 2011 Feb; 20(1): 60–67.)
抗うつ薬の中断症候群に関して、2015年のシステマティックレビュー[3]では、『一般的な症候群は、薬剤中止後数日以内に発生し、数週間継続し、緩やかに漸減する。しかし、症状発現は多様で、遅発例や症状持続期間の長いものも含まれていた。症候群は、再発の徴候と誤認されやすい傾向があった。』と報告している。
一般的に抗うつ薬中断症候群は、薬剤中止から1~3日以内に発生し、1〜2週間持続すると言われているが、通常は軽微であり、重篤なものであっても、薬剤の投与再開で急速に消失する。
そのメカニズムについては不明な点が多いものの、SSRIの長期投与ではセロトニン再取り込み阻害によってシナプス後膜レセプターのダウンレギュレーション関与しているのではないかという指摘がある。臨床的にはパロキセチン(パキシル®)、セルトラリン(ジェイゾロフト®)の中断症候群リスクの高いことが報告されている。[4]特にパロキセチンの中断症候群状発現頻度は40%~60%と高く、注意が必要である。[5]
抗うつ薬中断症候群の発現リスクは、薬剤の半減期による影響が強いと言われており、特に半減期が短い薬剤でそのリスクが高いことが示唆される。[6]しかしながら半減期は必ずしも絶対的な予測因子ではない。
実際、フルボキサミンは、パロキセチンと同等(かもしくはそれ以下)の半減期であるにも関わらず、中断症候群は、パロキセチンに比べて約10倍低いことが示されている。[7] また、ある研究では、パロキセチンの中断症候群は65%で発症したが、フルボキサミンでは7%にとどまったという報告も存在する。[8] ただ、こうしたパロキセチンの中断症候群の発現頻度は、フルボキサミンに対するパロキセチンの処方率の差が影響していると言った指摘もあり、薬理学的メカニズムなのか、処方されている患者母数の問題なのか明確なことは分かっていない。
(抗うつ薬の半減期:J Can Acad Child Adolesc Psychiatry. 2011 Feb; 20(1): 60–67.)
SNRIであるベンラファキシン(イフェクサー®)は、約3〜13時間(平均5時間)の短い半減期であり、より頻繁かつ重篤な中断症候群が予想される。 ある研究では、2週間までの漸減スケジュールだったにもかかわらず、3日以内に78%(9人中7人)で中断症候群が発生したと報告されている[9]
同じくSNRIであるデュロキセチン(サインバルタ®)も同様に、約12時間という短い半減期であり、中断症候群はSSRIおよびベンラファキシンに匹敵するものと考えられる。[10]Bitter らは2011年の論文で、同薬を中止する際、投与中止の2週間前より漸減することを推奨している。[11] また、SNRIはSSRIよりも中断症候群の発生リスクが高いと言う指摘もある。[12]
Wilson らによる2015年のレビュー[13]では抗うつ薬中断症候群への対応として以下のようにまとめている。
■抗うつ薬の服用期間が4週に満たない患者では、薬剤中止時において漸減する必要はない。[14]
■中断症候群が強く表れた場合には、速やかに抗うつ薬の投与を再開し、漸減期間を延ばすなどより慎重な漸減方法を実施すべきである。[15][16]
■抗うつ薬による治療期間と中断症候群の発症率には明確な関連性を認めない。[17][18]
■中断症候群の発現因子として漸減スケジュールよりも薬剤の半減期の方が重要である。(2週間漸減スケジュールと3日間漸減スケジュールで離脱症状に明確な差がない[19])
■ベンラファキシン(イフェクサー®)やパロキセチン(パキシル®)などの半減期の短い抗うつ薬では、重度の中止症候群を考慮して、より緩やかな用量の減少が推奨される[20]
■半減期の長い薬剤では漸減する必要はあまりないかもしれない。また投与量がそもそも少ないケースでは短期間の漸減でも良いかもしれない。
■現時点で明確で標準的な漸減方法は示されていない。[21]
抗うつ薬中断症候群は多くの症例で軽微であり、1週間以内に自然消失することが多く、積極的な治療は必要ないと言われている。しかしながら、重度の症状が発言した場合、SSRIの再導入、その後の長期間の漸減スケジュールが必要となりる。
具体的かつ標準できな漸減スケジュールは報告されていないが、例えば、パロキセチンを2〜4週ごとに5mg漸減する方法では症状の再発を引き起こさなかったという報告がある。[22]また、SSRIの中止において、より慎重な漸減が必要な場合には4〜6週ごとに4分の1に減らすなどの方法が提案されている。[23]
[注釈]
[1] Front Pharmacol. 2013 Apr 16;4:45. PMID: 23596418
[2] Psychother Psychosom. 2015 Feb 21;84(2):72-81. PMID: 25721705
[3] Psychother Psychosom. 2015 Feb 21;84(2):72-81. PMID: 25721705
[4] J Can Acad Child Adolesc Psychiatry. 2011 Feb;20(1):60-7. PMID: 21286371
[5] Am Fam Physician. 2006 Aug 1;74(3):449-56. PMID: 16913164
[6] Front Pharmacol. 2013 Apr 16;4:45. PMID: 23596418
[7] Br J Clin Pharmacol. 1996 Dec;42(6):757-63. PMID: 8971432
[8] J Psychiatry Neurosci. 2000 May;25(3):255-61. PMID: 10863885
[9] Am J Psychiatry. 1997 Dec;154(12):1760-2. PMID: 9396960
[10] Ann Clin Psychiatry. 2008 Jul-Sep;20(3):175PMID: 18633745
[11] Expert Opin Drug Saf. 2011 Nov;10(6):839-50 PMID: 21545241
[12] J Can Acad Child Adolesc Psychiatry. 2011 Feb;20(1):60-7. PMID: 21286371
[13] Ther Adv Psychopharmacol. 2015 Dec;5(6):357-68. PMID: 26834969
[14] J Pharm Pract. 2013 Aug;26(4):389-96. PMID: 23459282
[15] Drugs. 2007;67(12):1657-63. PMID: 17683167
[16] Am Fam Physician. 2006 Aug 1;74(3):449-56. PMID: 16913164
[17] Int J Neuropsychopharmacol. 2007 Feb;10(1):73-84. PMID: 16359583
[18] Front Pharmacol. 2013 Apr 16;4:45. PMID: 23596418
[19] J Psychopharmacol. 2008 May;22(3):330-2. PMID: 18515448
[20] Int Clin Psychopharmacol. 2004 Sep;19(5):271-80. PMID: 15289700
[21] Am Fam Physician. 2006 Aug 1;74(3):449-56. PMID: 16913164
[22] CNS Drugs. 2006;20(8):665-72. PMID: 16863271
[23] Drug Saf. 2001;24(3):183-97. PMID: 11347722