思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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【本の紹介】キャラ勉!抗菌薬データ

 とあるワークショップの企画案で、”糖尿病治療薬の特徴をレーダーチャートみたいにできたらよいよね” という話が出たことがありました。各薬剤における「低血糖リスク」「体重への影響」「心血管アウトカムへの影響」「心不全リスク」「死亡リスク」などのアウトカムをエビデンスに基づいて5段階で評価し、薬剤ごとの特性を視覚的に把握できるようなレーダーチャートを作成するというものです。

 エビデンスに基づくと言っても、各アウトカムを直接比較した臨床試験はほとんど存在せず、5段階評価で各薬剤の特徴づけを行うのには、かなり恣意性が入ってしまうので、現実的には難しいかなぁと考えていました。とはいえ。糖尿病治療薬をキャラクター化するという試みはかなり面白いんじゃないか、個人的にはそう思っていたわけです。

 そんななか、出ました。僕は抗菌薬や感染症治療の専門家ではないですが、この発想は正直、「先を越されたっ」という感じでした。「キャラ勉!」というネーミングもセンスが良すぎます。

キャラ勉! 抗菌薬データ

 本書は臨床上重要な代表的抗菌薬52種類を取り上げ、系統別にキャラクター化し、その特徴をビジュアル的に把握できるようにしたものです。作用機序や薬物動態プロファイル、適応菌種などはアイコン化され、一見すると、10代のころに夢中になったドラクエやFFの攻略本のようにも思えてしまう本書。しかし、盛り込まれている内容は初学者にとって過不足なく、とてもバランスが良いと思います。

  2016年4月AMR対策アクションプランが策定され、今後ますます抗菌薬の不適切使用を抑止する動きが加速する中、抗菌薬に関する知識は、医療にかかわるあらゆる職種の人が身に着けておく必要があります。

 近年、感染症関連の書籍は非常に質の良いものが多数刊行されていますが、初学者にとって学びやすい入門書は必ずしも多くはありません。本書はそんな初学者に対して学びの良いきっかけを与えてくれるのではないかと思います。本書で抗菌薬の特徴を把握することで、実臨床における抗菌薬の考え方、使い方に関してさらに踏み込んだ学びにつなげることができるでしょう。