思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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NSAIDと降圧薬の処方カスケードについて

■処方カスケード[疼痛▶NSAIDs▶血圧上昇▶降圧薬]

 薬剤誘発性高血圧の原因薬剤としてNSAIDがあげられる。同薬剤は腎プロスタグランジン産生抑制による水、Na貯留と血管拡張の抑制をもたらすことで血圧上昇に寄与しうる。

 実際、1994年にGurwitzらにより報告された症例対照研究[1]では、NSAIDs投与により降圧薬が追加投与されるリスクが1.66倍増加するという結果であった。

 本研究では65歳以上で、1981年11月から1990年2月までにおいて降圧薬を処方された9411例と、同数の対照群が比較されている。その結果、降圧薬の使用を新規開始した患者ではNSAIDS使用が有意に多いことが示された。(調整オッズ比1.66 [95%信頼区間1.54 ~1.80]) このオッズ比はNSAIDs投与量増加に伴い上昇することも示されており、中用量で投与されていた患者のオッズ比は1.64 [95%信頼区間1.44~1.87]、 高用量で投与されていた患者のオッズ比は1.82[95%信頼区間1.62~2.05]であった。

NSAIDの使用は高血圧発症のリスクファクターなのか。

 そもそもNSAID の使用で高血圧症を発症しうるものなのだろうか。NSAIDsの使用と高血圧の関連を検討した研究 [2]によれば、NSAIDSの使用が高血圧の独立したリスク因子であることが示されている。この研究では、60歳以上の男性1237人、女性1568人が対象となり、NSAID使用と高血圧について、交絡調整後のオッズ比は1.4[95%信頼区間1.1-1.7]という結果であった。

 また、65歳以上の高齢者を対象とした横断研究[3]によれば、NSAIDを服用し降圧療法を受けている人では、NSAIDを服用していない人よりも約5mmHg高い収縮期血圧を示し、140mmHg以上の収縮期血圧を有する可能性が高い(オッズ比 2.19[95%信頼区間1.33~3.61])ことが報告されている。

  さらに、高血圧の病歴のない54~69歳の51630人の女性を対象に、アスピリンアセトアミノフェンNSAIDの使用と高血圧の関連を検討した研究[4]でも、NSAID使用で高血圧発症リスク増加が示されている。NSAID非使用者と比較し、高血圧のオッズ比はアスピリンで1.21 [95%信頼区間1.13 ~1.30]、アセトアミノフェン1.20 [1.08 ~1.33]、 NSAIDs,で1.35 [95%信頼区間1.25 ~1.46]であった。また、各鎮痛役において、使用頻度の増加に伴って高血圧のリスクが高まる傾向があった。(P <0.001)

  他方で、NSAIDの使用が高血圧と関連しないという研究[5]も報告されている。本研究は、Physician's Health Studyに参加した8229名の参加者を対象にしたコホート研究であり、平均5.8年間の追跡調査を行ったものだ。交絡調整後のハザード比は1.12[95%信頼区間0.97-1.31]となっており、高血圧との関連性に統計的な有意差を認めなかった。 

NSAIDsでどの程度血圧が上昇するのか

  123のNSAIDs治療を検討している44研究を対象(1324例[うち高血圧患者1213例]、平均46歳)としたメタ分析[6]によれば、血圧は、インドメタシンで3.59mmHg、ナプロキセンで3.74mmHg、ピロキシカムで0.49mmHg上昇したと報告されている。他方、プラセボで2.59 mmHg、イブプロフェンで0.83 mmHg、アスピリンで1.76 mmHg、スリンダクで0.16 mmHg減少したと報告されており、必ずしも全てのNSAIDsで血圧上昇がみられるわけではないようだ。

  また、40件のランダム化比較試験のメタ分析[7]ではNSAIDsの使用で平均5.0 mm Hg (95% CI, 1.2 to 8.7 mm Hg)の血圧上昇をもたらしたという結果になっている。しかしながら、ピロキシカムで6.2mmHg[95%信頼区間0.8~11.5)と最も顕著な血圧上昇を生じた一方、スリンダクおよびアスピリンではむしろ降圧効果が示されている。

 つまりNSAIDと血圧上昇、高血圧発症の関連は、薬剤ごと、患者背景ごとの個別性が強そうである。高血圧患者を対象に、アセトアミノフェンと各種NSAIDsを比較して、血圧上昇を比較検討した後ろ向きコホート研究[8]によれば、特にイブプロフェンの使用で、高血圧患者の収縮期血圧のわずかな上昇と関連していることが示されている。

 本研究では、1,340人のNSAIDコホート(平均56歳)と1,340人(平均57歳)のアセトアミノフェンコホートが比較されており、傾向スコアを用いて交絡調整が行われている。その結果、アセトアミノフェンを使用した患者と比較して、NSAID使用患者の平均収縮期血圧は2mmHg[95%信頼区間0.7~3.3]増加した。

 特にイブプロフェンは、ナプロキセンと比較して平均収縮期血圧が2.5mmHg[95%信頼区間0.5~4.6]上昇した。併用されている降圧薬別の解析を見てみると、利尿薬では1.3mmHg[95%信頼区間-0.8〜3.4]と有意な上昇を認めなかった。これはやはりNa貯留の問題が血圧上昇と関連している可能性を示唆している。また、降圧薬2剤併用例でも有意な血圧上昇は見られなかった。

 とはいえイブプロフェンの高用量投与(1800mg/日)がヒドロクロロチアジドを投与されている高齢高血圧患者の収縮期血圧を有意に増加させるとした小規模ランダム化比較試験[9]が報告されており注意が必要である。

NSAIDの使用と降圧薬の使用は処方カスケードの関係にあるのか?

 NSAIDが与える血圧上昇への影響について、研究結果に一貫性がなく結論しがたいが、インドメタシンイブプロフェンなどの古典的NSAIDSでは影響が強いかもしれない。既に降圧薬を投与されている高血圧患者では、利尿薬や降圧薬2剤併用であればNSAIDの血圧上昇は臨床上あまり問題にならないかもしれない。

  NSAIDの使用と降圧薬の使用は処方カスケードの関係にあるのか? というテーマについて考えたとき、これまでのエビデンスを踏まえると、必ずしもNSAIDが血圧上昇をもたらしているのではなく、それは一つの要因の可能性であり、他の要因で血圧が上昇している可能性も視野に入れる必要があるかもしれない。

 ステロイド免疫抑制剤などでも血圧は上昇しうる。またNSAIDを長期的に服用している人は、関節リウマチや変形性関節症を有する可能性が高い。特に、リウマチ患者においては高血圧の有病率が高く、若年患者においては過小診断の状況にあったことが報告されている。[10] NSAIDを服用しているという背景的要因が、NSAIDとは独立して高血圧の発症リスクを高めている可能性も考慮したい。

■処方カスケードに抱く違和感……。

 処方カスケードという概念に注目するメリットは、薬物有害事象が薬剤に起因するイベントであることに留意するという点にある。医学的プロブレムが単に患者の病態によりもたらされているのではなく、患者のために良かれと思った薬剤使用によってもたらされている事態を明るみにするという意味で大きなインパクトがある。しかし、ポリファーマシーの概念普及と共に、処方カスケードに関心が高まり、同時に見失っているものも多々あるような気がしている。

 多剤併用になる要因は大きくマルチモビディティと処方カスケードにある。しかし、処方カスケードの可能性を示唆する疫学的研究の多くは観察研究であり、原理的にこの2者を区別することができない。つまり真の因果関係なのか、逆の因果関係なのか判別することができないのだ。ポリファーマシーにネガティブな価値を付与することにより、多剤併用の要因探索としてより処方カスケードに注目していく構造は確かにある。それが決して悪いわけではないと思うのだが、カスケードがおこっているから、じゃ被疑薬を中止しましょう……。とはならないでしょう、というのが僕が抱く違和感である。

  マルチモビディティも処方カスケードも、どちらもプロブレムであろう。ただ、本ケースでいえば、どんなNSAIDなら血圧への影響は少ないだろうか、どの程度の用量、どの程度の使用期間ならばよいだろうか。処方カスケードと理解したうえで降圧薬を併用するのであれば、どんな薬剤がリスク・ベネフィットに優れるだろうか。実際には、こうしたことを考えていく必要があろう。「NSAID」▶「降圧薬」=「処方カスケード」という短絡的な思考では、見えてくるものも見えてこない気がする。

 [参考文献]

[1] Gurwitz JH.et.al. Initiation of antihypertensive treatment during nonsteroidal anti-inflammatory drug therapy. JAMA. 1994 Sep 14;272(10):781-6. PMID: 8078142

[2] Johnson AG.et.al. Non-steroidal anti-inflammatory drugs and hypertension in the elderly: a community-based cross-sectional study. Br J Clin Pharmacol. 1993 May;35(5):455-9. PMID: 8512757

[3] Chrischilles EA.et.al. Nonsteroidal anti-inflammatory drugs and blood pressure in an elderly population. J Gerontol. 1993 May;48(3):M91-6. PMID: 8482817

[4] Dedier J.et.al. Nonnarcotic analgesic use and the risk of hypertension in US women. Hypertension. 2002 Nov;40(5):604-8; discussion 601-3. PMID: 12411450

[5] Kurth T.et.al. Analgesic use and risk of subsequent hypertension in apparently healthy men. Arch Intern Med. 2005 Sep 12;165(16):1903-9. PMID: 16157836

[6] Pope JE.et.al. A meta-analysis of the effects of nonsteroidal anti-inflammatory drugs on blood pressure. Arch Intern Med. 1993 Feb 22;153(4):477-84. PMID: 8435027

[7] Johnson AG.et.al. Do nonsteroidal anti-inflammatory drugs affect blood pressure? A meta-analysis. Ann Intern Med. 1994 Aug 15;121(4):289-300. PMID: 8037411

[8] Aljadhey H.et.al. Comparative effects of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) on blood pressure in patients with hypertension. BMC Cardiovasc Disord. 2012 Oct 24;12:93. PMID: 23092442

[9] Gurwitz JH.et.al.The impact of ibuprofen on the efficacy of antihypertensive treatment with hydrochlorothiazide in elderly persons.J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1996 Mar;51(2):M74-9.PMID: 8612107

[10] Panoulas VF.et.al. Prevalence and associations of hypertension and its control in patients with rheumatoid arthritis. Rheumatology (Oxford). 2007 Sep;46(9):1477-82. PMID: 17704521