思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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利尿薬と尿酸降下薬の処方カスケードについて

■処方カスケード[高血圧etc▶利尿薬▶尿酸値上昇or痛風発作▶尿酸降下薬]

  利尿薬の有害反応として電解質異常や血清尿酸値上昇は良く知られている。実際、チアジド利尿剤の使用で、尿酸降下薬治の開始が有意に増加することが後ろ向きコホート研究[1]により示されている。

  この研究は、降圧薬を新規処方され、尿酸降下薬(アロプリノール、コルヒチン、またはアロプリノール)を使用していない、65歳以上の9249人が対象に、降圧薬の投与と尿酸降下薬使用の関連について検討している。その結果、非チアジドの降圧薬単独治療については相対危険1.00[95%信頼区間0.65~1.53]であったが、チアジド系利尿薬では、相対危険2.29[95%信頼区間1.55~3.37]と有意に増加した。尿酸降下薬の開始リスクは、チアジド用量が25mg /日以上で有意に増加した。 なお、低用量ではリスクの有意な増加は見られなかった。

 ■利尿薬により痛風発作は誘発されやすくなるのか

  利尿薬使用は尿酸値上昇のみならず、痛風発作誘発との関連性も指摘されている。[2] ただし、その関連性は必ずしも明確なものではない。高血圧を有する成人において利尿薬と痛風発作の関連を検討したコホート研究[3]によれば、尿酸値で統計的に補正をかけることで、利尿薬と痛風発作の関連性に統計的有意差を認めないことが示されているからだ。

  この研究では、ベースライン時に痛風がなく、高血圧(高血圧を治療する薬剤または≧140 / 90mmHgの血圧を有すると定義)を有する5,789人が対象となった。なお、参加者の37%で利尿薬を使用していた。

  痛風発作は利尿薬なしと比較して、利尿薬の使用でハザード比1.48 [95%信頼区間1.11~1.98])、チアジド系利尿薬でハザード比1.44 [95%信頼区間1.00~2.10]), ループ利尿薬でハザード比2.31 [95%信頼区間1.36~3.91]) であった。血清尿酸値で調整すると、利尿作用と痛風との関連は認めなかった。利尿薬以外の降圧薬の使用は、未治療の高血圧症と比較して、痛風のリスクの低下と関連していた(調整HR 0.64 [95%信頼区間0.49~0.86])

 ■処方カスケードをどう防ぐのか。

 本ケースにおいて、利尿薬が痛風発作をもたらすかどうかは別にしても、少なからず尿酸値に影響を与えることは経験的にも多いように思われる。では尿酸値が上がったら利尿薬は中止すべきなのだろうか。

  もちろん中止が十分考慮できるのであれば中止するに越したことはないが、臨床現場ではしばしば必要だからこそ利尿薬が処方されていることが多い。では、どうすれば良いのか、本項では2つの選択肢を考えてみる。

 ①チアジド系利尿であれば25mg以下に減量してみる。

  薬理学的にも利尿薬による尿酸値上昇は用量依存的であると思われる。利尿効果を弱めたくない場合、血清尿酸値に与える影響が少ないスピロノラクトンを加えるもの選択肢の一つかもしれない。特に心不全患者においては血清カリウム値に中止ながらもスピロノラクトンの使用は否定されるものではないだろう。

 ②尿酸値が高くても利尿薬が中止できない時でかつ血圧が高く他に降圧薬を併用しているケースでは、併用降圧薬をロサルタンにしてみる。[4]

  ARBの中でも血清尿酸値低下効果が示唆されているのはロサルタンとイルベサルタンである。これら薬剤はurate transporter 1 (URAT1)を阻害することで、尿酸の再吸収を阻害し血清尿酸値を下げると考えられている。[5][6][7] 利尿薬+ARB以外の降圧薬を服用している患者で尿酸値が上昇してしまった……。だが、利尿薬を中止したくない……。じゃ、尿酸降下薬を使うか、というシチュエーションで、併用降圧薬をロサルタンにしてみる、という選択肢は残されても良いだろう。

[参考文献]

[1] Gurwitz JH.et.al. Thiazide diuretics and the initiation of anti-gout therapy. J Clin Epidemiol. 1997 Aug;50(8):953-9. PMID: 9291881

[2] Macfarlane DG,et.al. Diuretic-induced gout in elderly women. Br J Rheumatol. 1985 May;24(2):155-7. PMID: 3995213

[3] McAdams DeMarco MA.et.al. Diuretic use, increased serum urate levels, and risk of incident gout in a population-based study of adults with hypertension: the Atherosclerosis Risk in Communities cohort study. Arthritis Rheum. 2012 Jan;64(1):121-9. PMID: 22031222

[4] Matsumura K.et.al. Effect of losartan on serum uric acid in hypertension treated with a diuretic: the COMFORT study. Clin Exp Hypertens. 2015;37(3):192-6. PMID: 25051056

[5] Hamada T, Ichida K, Hosoyamada M.et.al. Uricosuric action of losartan via the inhibition of urate transporter 1 (URAT 1) in hypertensive patients. Am J Hypertens. 2008 Oct;21(10):1157-62 PMID: 18670416

[6] Nakamura M, Sasai N, Hisatome I.et.al. Effects of irbesartan on serum uric acid levels in patients with hypertension and diabetes. Clin Pharmacol. 2014 May 3;6:79-86 PMID: 24833923

[7] Nakamura M, Anzai N, Jutabha P,et.al. Concentration-dependent inhibitory effect of irbesartan on renal uric acid transporters. J Pharmacol Sci. 2010;114(1):115-8. PMID: 20736511