思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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【書籍の紹介】 ポリファーマシーで困ったら 一番はじめに読む本

 近年、注目を集めるポリファーマシーをめぐる問題。医療者としてポリファーマシーにどう関わって行けば良いのでしょうか。なかなか最適解が存在しない中、貴重な書籍が出版されました。

ポリファーマシーで困ったら 一番はじめに読む本 研修医、新人薬剤師のうちに知っておきたいポリファーマシーとの上手な付き合い方のコツ

 西伊豆健育会病院の吉田英人 先生によるこの書籍は、ポリファーマシーとその周辺問題を広く扱ったとても実践的な内容となっています。

 基礎編では、ポリファーマシーの定義を巡るテーマから、ポリファーマシーの周辺問題細部に至るまで丁寧に整理されています。このテーマに初めて取り組む人はもちろん、ある程度ポリファーマシーについて学んできた人でも十分に読み応えのある内容となっています。

 実践編では具体的な症例をもとに、ポリファーマシーについてどう向き合っていくか、そのプロセスが分かりやすく解説されています。患者さんの抱く薬に対する想い、エビデンスを踏まえた医療者の治療方針をどうすり合わせていくか、その考え方はリアルに日常臨床に直結する、極めて実践的な内容です。

  本書全体を通じて、一貫して示されているのは、「木と向き合い、枝葉を整え、森を育てる」すなわち、目の前の患者さんを知り、治療のリスク/ベネフィットを丁寧に考察し、多職種との連携や地域全体の問題として関わっていくという事です。今やポリファーマシーを巡る問題は、医療全体の問題でもあり、介入の目的は、薬を減らすことだけではありません。実際、ポリファーマシーに対して、薬のみに焦点を当てた介入だけでは、うまくいかないことが複数の研究で示されています[1][2][3]

  薬物療法の適切性を巡る問題というのは、客観的な正しさが「ある」のか「ない」のかということよりも、立場や背景差異、あるいは情報の捉え方の相違であることも大きく影響しています。そして、大事なのは多職種と連携したフォロー、地域全体の問題として捉えていくという事。だからこそ、薬物療法について、医師、薬剤師をはじめとする医療者同士はもちろんのこと、医療者と患者との間で、同じ“コンテクスト”つまり物語を共有することから始める必要があると思うのです。本書はそのきっかけを作ってくれる強い力を秘めています。

 

【参考文献】

[1] JAMA Intern Med. 2018 Mar 1;178(3):375-382. PMID: 29379953

[2] Br J Clin Pharmacol. 2016 Aug;82(2):532-48. PMID: 27059768

[3] BMC Fam Pract. 2017 Jan 17;18(1):5. PMID: 28095780