EPA製剤で心血管イベントリスクは低下するの??
海洋生物由来のn-3脂肪酸の摂取量増加は、いくつかの観察研究において、心臓血管疾患および癌のリスク低下と関連していいます[1]。しかしながら、 n-3脂肪酸の積極的な摂取が、これらのアウトカムに対してどの程度の有効性が期待できるかはあまり明確ではありません[2][3][4]。
2018年にも、n3系不飽和脂肪酸に関するランダム化比較試験がいくつか報告されています。米国における50歳以上の男性および55歳以上の女性を対象に、心臓血管疾患および癌の一次予防として、ビタミンD3(1日当たり2000IUの投与量)とn-3脂肪酸(1日1gの投与量)の効果を検討した2×2因子デザインのランダム化比較試験【VITAL】[5]では心血管疾患及び癌に対する有効性は示されませんでした。
この研究ではアフリカ系アメリカ人参加者5106人を含む合計25,871人が対象となり、心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、または心臓血管死亡の複合アウトカム)およびあらゆるタイプの浸潤がんの発症が一次アウトカムに設定されています。
中央値で5.3年追跡した結果、心血管イベントは、n-3系不飽和脂肪酸群で386/12933例、プラセボ群で419/12983例、ハザード比は0.92[95%信頼区間0.80~1.06]と、有意な差を認めませんでした。また、あらゆるタイプの浸潤がんについても同様に、n-3系不飽和脂肪酸群で820/12933例、プラセボ群で797/12983例と、ハザード比は1.03[95%信頼区間0.93~1.13]という結果でした。
n-3系不飽和脂肪酸の心血管疾患一次予防及び二次予防効果について、Cochranのシステマティックレビュー[6]もアップデートされました。この解析では79 件のランダム化比較試験に参加した112,059 例が対象となりました。その結果、総死亡(相対危険0.98[95%信頼区間0.90~1.03]), 心血管死亡 (相対危険0.95[95%信頼区間0.87~1.03]),心血管イベント(相対危険0.99[95%信頼区間0.94 ~1.04])冠動脈疾患死亡 (相対危険0.93[95%信頼区間 0.79~1.09]といずれのアウトカムにも明確な差は示されておらず、これまでの研究とほぼ同様の結果となっています。
アテローム動脈硬化性心血管疾患を伴わない糖尿病患者15480例を対象に、n-3系不飽和脂肪酸摂取と心血管疾患リスクを検討したランダム化比較試験【ASCEND】[7]でも、明確な効果は示されていません。平均で7.4年間追跡した結果、一次アウトカムである重篤な血管イベント(非致死的心筋梗塞または脳卒中、一過性虚血性発作など)の発生はn-3系不飽和脂肪酸群で8.9%、対照のオリーブ油群で9.2%と統計学的な有意差を認めませんでした(発生率比0.97[95%信頼区間0.87~1.08])。
しかし、ながら高純度EPA製剤の心血管アウトカムへの効果を検討したランダム化比較試験REDUCE-IT試験[8]ではこれまでの報告とはやや異質な結果が示されています。
この研究はスタチンによりLDLコレステロールが41~100mg/dlで管理されており、TGが150~499mg/dLで、心血管疾患または糖尿病の既往、および少なくとも心血管の危険因子が1つ以上ある8,179例が対象となりました。
被験者はスタチンに加え、高純度EPA製剤(Icosapent ethyl)4mg/日を投与する群と、プラセボを投与する群にランダム化され、複合心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈再建術、不安定狭心症による入院)が検討されました。
中央値で4.9年間追跡した結果、一次アウトカムはEPA製剤群で17.2%、プラセボ群で22.0%、ハザード比0.75[95%信頼区間0.68~0.83]と統計学的にも有意にリスク低下が示されています。心血管イベントに対する4.9年間でのNNTはなんと21という、慢性疾患領域では驚異的な数値となっています。
有害事象はEPA製剤群で抹消浮腫(6.5%対5.0%)、心房細動(5.3% 対3.9%)、便秘(5.4% 対3.6%)が多いという結果になっていますが、試験薬服用中止に至った有害事象発現率や出血に関しては両群に差はありませんでした。
研究デザインは多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験であり、結果の妥当性は低くないようにも思えます。1日4gのEPA製剤という用法用量上の現実性を鑑みても、これほどまでに異質な結果を、そのまま鵜呑みにすることはやや危険な気もします(この研究結果は日本人を対象としたEPA製剤のランダム化比較試験JELIS[9]の結果と類似しています)。
本研究のEDITORIALとして『FISHing for the Miracle of Eicosapentaenoic Acid.』と題された論説[10]がNEJMに掲載されています。
本研究の被験者は主に二次予防(71%)の患者であり、すでにスタチンが投与されている患者で、60%が糖尿病を有していました。BMIも30と、かなり肥満患者が登録されています。研究の対象者を限定したことがこの結果をもたらした一つの要因となるかもしれませんが、それだけではないような気もします。Supplementary Table 4.[11]を見てみますと脂質異常症がプラセボ群で悪化している可能性もあり(全例にスタチンが投与されているにも関わらず)、EPA製剤単独でイベントリスクを低下させているかどうか不明な部分もあります。現時点で高純度EPA製剤の高用量投与が有効と結論するにはまだ早い気もしています。
【参考文献】
[1] J Am Coll Cardiol. 2011 Nov 8;58(20):2047-67【PMID: 22051327】
[2] Can Pharm J (Ott). 2016 May;149(3):166-73. 【PMID: 27212967】
[3] Mayo Clin Proc. 2017 Jan;92(1):15-29.【28062061】
[4] J Clin Lipidol. 2017 Sep - Oct;11(5):1152-1160.e2.【PMID: 28818347】
[5] N Engl J Med. 2018 Nov 10. [Epub ahead of print]【PMID: 30415637】
[6] Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 18;7:CD003177.【PMID: 30019766】
[7] N Engl J Med. 2018 Oct 18;379(16):1540-1550.【PMID: 30146932】
[8] N Engl J Med. 2018 Nov 10. [Epub ahead of print] 【PMID: 30415628】
[9] Lancet. 2007;369(9567):1090-8. 【PMID:17398308】一次アウトカムの発生率はスタチン+EPA群で2.8%、スタチン単独群で3.5%と、スタチン+EPA群で19%低下(p=0.011)しましたが、PROBE法+ソフトエンドポイントを用いた研究のため結果の解釈には注意が必要です。
[10] N Engl J Med. 2018 Nov 16. [Epub ahead of print]【PMID: 30444682】
[11]https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1812792/suppl_file/nejmoa1812792_appendix.pdf