思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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地域医療ジャーナル 2018年の記事を振り返る

 地域医療ジャーナル 2019年01月号 vol.5(1) が発刊されています。

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 今年も月1回、12記事を執筆させていただきました。同じテーマを長期的に連載するというよりは、毎月ごとにテーマを決め、それについて学びを深めていく過程を記事にしていく、というスタイルで執筆をしてきたように思います。インプット→整理→アウトプット、というサイクルが僕自身の学びのペースに程よく、しばらくはこのスタイルで記事を投稿させていただこうと考えております。

 2018年の投稿記事を少しだけ振り返りながら、自分がどんなインプットをして、どんなアウトプットをしてきたか、個人的に印象に残ったトピックを含めてご紹介します。

利益相反について考察する】

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 2018年3月号では利益相反についてまとめました。記事の執筆にあたり、一次文献をサーベイしましたが、利益相反に関する論文や論考がそれほど多くはないな、という印象でした。

 利益相反(Conflict of Interest:COI)状態とは、ある行為が、一方の利益になると同時に、他方の不利益になるような状態のことをさします。利益相反は日常的に発生しうるもので、利益相反という状態自体が善悪の評価対象になるわけではありません。実際に利益相反行動が発動し、一方の利益が阻害されてしまうときに問題が発生するわけですね。

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【国語力で読み解く医療情報】

 2018年年7月から4回にわたって連載した「医療情報を読み解くための国語ゼミ」。ネット上の医療・健康に関する情報に対して、医学的な専門知識を駆使して吟味するというスタンスではなく、文章表現に対する論理的整合性という観点、つまりは国語力で情報内容の良し悪しを考えてみようという企画でした。本企画のベースとなったのが、以下の書籍です。

増補版 大人のための国語ゼミ (単行本)

 たとえ科学的の妥当性が高いといわれるような論文情報(エビデンス)に基づいていたとしても、情報の解釈には恣意が入りますし、薬剤効果や介入効果というのは、言葉で記述する限りは「表現」だといえます。情報と現象との間に広がるグレーゾーンについて、言葉は如何様にも記述が可能であることを、国語という学問を通じて感じることができるかと思います。

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 そして、“常に疑いを持って「本当はどうなっているのだろう」と” 問いを立てる力、この力こそ国語力の真髄ではないかと思います。

【医療倫理特集】
 2018年10月では医療倫理特集に「高齢者薬物療法における倫理的な問題」を投稿いたしました。

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 近年、急速に認知度が高まり、関心を集めている多剤併用の問題や残薬に関する問題において、不適切な薬剤を減らそう、という風潮が高まっています。しかし、どんな薬物治療が適切で、どんな薬物治療が不適切なのか、よくよく考えてみれば、両者の間に明確な境界線があるわけではありません。両者を決めているのは科学の問題というよりは倫理の問題であって、事実判断の問題ではなく、価値判断の問題だからです。いずれにせよ、薬剤の不適切性を考えるうえで倫理学は必要不可欠だと言えましょう。

 なお、この分野に関連して、今年読んだ倫理学系の本で是非お勧めしたい書籍は「メタ倫理学入門: 道徳のそもそもを考える」です。

メタ倫理学入門: 道徳のそもそもを考える

 善いとか悪いってどういうこと? 一歩下がってメタ的に考えることで、深くて広い新しい世界が見えて来ることでしょう。なお、哲学(倫理学は哲学の一分野です)の入門書として優れた書籍です。

【費用対効果を考察する】

  2018年6月に投稿した記事では「糖尿病スクリーニングの費用対効果」を考察しました。

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 なかなか系統的に学ぶ機会の少ない費用対効果分析ではありますが、このテーマについては以下の書籍がおすすめです。

「薬剤経済」わかりません! !

【臨床現場における意思決定と行動経済学

 2018年12月号に投稿したのは「医療・健康問題の意思決定における限定合理性について」です。

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 行動経済学の基本的な事項を解説したうえで、臨床における意思決定と人の振る舞いに関して考察しています。この分野についても、まだまだ書籍や論考は少ないですが、以下の書籍はおすすめです。一般向けに書かれた書籍なので、専門的な知識失くして読み進めることができます。

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者

 また行動経済学の本ではありませんが、意思決定と限定合理性をめぐるテーマは、以下の書籍は読みやすいと思います。

現代世界における意思決定と合理性

健康の社会的決定要因をめぐる考察】

  2019年1月号に投稿した記事は「社会的環境が人の健康状態を決定する―社会疫学のススメ」です。

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 近年、健康と疾病の分布においても、一定の社会環境のパターンに沿った傾向性が認められることが明らかになってきました。僕は社会疫学の専門家ではありません。しかしながら、これまで数多くの臨床医学論文を読む中で、社会疫学に関する研究論文にも少なからず目を通し、自分なりに考察を重ねてきました。この論考では、社会疫学分野におけるいくつかの代表的な探究領域関して、最近の研究動向とその展望についてご紹介しています。

 なお、社会疫学分野に関して僕自身が読んでみたい本をご紹介します(これから読みたい本です)

 

社会疫学<上>

社会疫学<下>

社会疫学と総合診療 (「ジェネラリスト教育コンソーシアム」シリーズ 10)

健康格差と正義―公衆衛生に挑むロールズ哲学

 なお、2019年2月号では、健康の社会的決定要因として、所得格差を取り上げ、収入と健康問題について考察を深めていく予定です。

  本年も、大変お世話になりました。

 来年もどうぞ、よろしく願いいたします。