思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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FREED試験について思うこと。

 米国食品医薬品局(FDA)による、フェブキソスタットの安全性情報に関する記載アップデート(19年2月21日)ツイッターでも話題になりましたね。『フェブキソスタットの死亡リスクはアロプリノールを上回ると結論』という文言は、なかなかにインパクトのあるものでした。

 もちろんCARES(N Engl J Med.2018;378:1200-10. PMID:29527974)の結果に基づく見解ではありますが、キサンチンオキシダーゼ阻害薬の臨床上での立ち位置も含め、僕なりの意見を日経DIオンラインコラムにまとめています。

 フェブキソスタットか?アロプリノールか?

medical.nikkeibp.co.jp

 

 同記事でも紹介したFREED試験ですが、3月7日付で論文がパブリッシュされています。

academic.oup.com

 この論文結果については様々な議論を展開することが可能です。結局のところ、論文結果という事実に対する絶対的に正しい解釈など存在しないからです。論文を読む人の関心に応じて、フェブキソスタットの有効性は『効く薬である』から『効かない薬である』まで変化します。そう言う意味で薬の効果など実在しない、なんて言っているわけですけど、個人的に指摘しておきたいのは、以下2点です。

①複合アウトカムの問題

②PROBE法採用試験にもかかわらずソフトエンドポイントの設定

 掲載誌がEuropean Heart Journalというだけで構えてしまうのは僕だけでしょうか。まあ、それはさておき、本研究ではいったい何を『検証』したのでしょう。因果効果の検出を目的に行われるランダム化比較試験、それはつまり検討したい臨床仮説を検証するために実施されているわけで、論文の読み手はそこを正確に見抜く必要があります。細かな精読も良いですけど、そもそも論として検証された仮説と生成された仮説は統計学的にはまるで異なった意味を持っていることに自覚的でいた方がいい。

 

 ランダム化比較試験では統計的な過誤を防ぐために、厳密なサンプル計算が行われます。論文には以下のように書かれています。

Approximately 500 patients were in each group to detect a difference in the occurrence of the primary composite endpoint between two groups, with 80% power at a two-sided 5% significant level.

  primary composite endpointに対して、αエラー5%、βエラー20%まで許容する設定で、両群500例と見積もられています。つまり検証された仮説は『 primary composite endpoint』ただ一つです。それ以外の検討項目については、αエラー、βエラーの許容値の保証ができず、検証された仮説ではなく、生成された仮説ということになります。余談ですが、生成された仮説を検証するには、改めてサンプル計算を行いランダム化比較試験を実施しなければなりません。

 では primary composite endpointってなんでしょう。同じく論文には以下のように書かれています(太字は筆者)。

Fatal and non-fatal cerebral, cardiovascular and renal events, and death other than cerebral or cardiorenal vascular disease during the study period were defined as the primary composite endpoint in the study, which consisted of the following: (i) death due to cerebral, cardiovascular, or renal disease; (ii) new or recurring cerebrovascular disease [stroke (cerebral haemorrhage, cerebral infarction, subarachnoid haemorrhage, stroke of unknown type), transient ischaemic attack]; (iii) new or recurring non-fatal coronary artery disease (myocardial infarction, unstable angina); (iv) cardiac failure requiring hospitalization; (v) arteriosclerotic disease requiring treatment (aortic aneurysm, aortic dissection, and arteriosclerosis obliterans); (vi) renal impairment [development of microalbuminuria (≥30 to <300 mg/g⋅creatinine (Cr))/mild proteinuria (≥0.15 to <0.50 g/g⋅Cr), progression to overt albuminuria (≥300 mg/g⋅Cr)/severe proteinuria (≥0.50 g/g⋅Cr), or worsening of overt albuminuria confirmed by two consecutive laboratory tests performed after the initiation of study treatment; doubling of serum Cr level; progression to end-stage renal disease]; (vii) new atrial fibrillation (including paroxysmal atrial fibrillation); (viii) death due to other cause (Supplementary material online, Table S2).

  つまり、(1)脳心腎血管疾患による死亡、(2)新規発症および再発の脳血管疾患、(3)新規発症および再発の非致死性の冠動脈疾患、(4)入院を要する心不全、(5)治療を要する動脈硬化性疾患、(6)腎機能障害の出現、(7)心房細動の新規発生、(8)脳心腎血管疾患以外の理由による死亡という8つの項目を足し合わせたものです。

 こうしたアウトカムを複合アウトカムなどと呼びますが、この8つの状態が同時に発生しうる状況ってどんな状態なんだろうって考えると、なんだかわけが分かりません。

 複合アウトカムの中身を個別に見ていく方もおられますけど、例えば『脳心腎血管疾患による死亡』だけを取り出してしまえば、それはもはや primary composite endpointではなく、仮に有意な差がついたとしても、検証された仮説ではありません。

 これは複合アウトカムを設定した研究全てに言えることですが、実際の臨床において『アウトカムが複合されて発生する』という状況を想像するは難しい。ましてや8個のアウトカム全体を見ているというのは、あまりにもざっくりしすぎていて、結局のところ臨床上のセッティングにどう置き換えて良いのか、少なくとも僕には理解不能です。

 さらにこの研究の致命的な問題はPROBE法+ソフトエンドポイントです。個人的心情を交えれば、同じくEuropean Heart Journal掲載に掲載されたKYOTO HEARTを思い出さずにはいられません。

 この問題については、コラム中でも指摘していますし、今更語るを好みませんが、Funding;Teijin Pharma Limited, Japan.Conflict of interest:……の記載と、この研究デザイン的な問題を含め、いわゆるSeeding trialである印象を拭うことは困難です。

 

※昨年末には『高尿酸血症痛風の治療ガイドライン 第3版』が発刊されています。

高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版