【書籍紹介】がん疼痛治療薬のうまい使い方(羊土社)
高齢化が急速に進む日本において、がんに罹患する人は多く、2018年の「人口動態統計月報年計(概数)の概況」によれば、主な死因別にみた死亡率(人口 10 万対)の年次推移は悪性新生物(腫瘍)がトップであり、経時的にもその死亡率は増加しています。したがって、緩和ケアに関する基本的な知識は臨床に従事する全ての医療者が身に着けておきたいスキルと言えるでしょう。
緩和ケアにおける薬物療法で、重要な役割を果たすのが、言うまでも無く鎮痛薬です。大きくオピオイドと非オピオイドに分けることができますが、その使い分けや副作用への対処方法、薬剤の切り替え等に悩むことも少なくないように思います。そのような中、がん疼痛治療の薬に関する書籍、「がん疼痛治療薬のうまい使い方」が羊土社さんより発売されました。まだ全てを読みこめているわけではありませんが、本書をレビューしてみたいと思います。
がん疼痛治療薬のうまい使い方
使い分けやスイッチングの考え方、実際の処方例から外来でのコツまで
木澤義之,岸野 恵,飯田真之/編
2020年07月27日発行 A5判 230ページ ISBN 978-4-7581-1882-8
《Amazon》
《楽天ブックス》
|
【テーマの新規性】
緩和ケアにおける薬物療法に特化した書籍としては、「緩和治療薬の考え方,使い方 ver.2(中外医学社/2017)」という良書が既に出版されています。
ただ、疼痛治療薬に特化した書籍という意味では、これまでに無いテーマを扱っていると言えるかもしれません。
【目次と全体の構成】
僕自身、いくつかの書籍を企画、編集をさせていただいた中で感じることは、目次案と執筆者の選定(複数共著の場合)で、書籍全体の良し悪しが(ほとんど)決まっていく側面があるということです。目次を見れば、手にした書籍が、どんな関心のもとに執筆され、どのような全体構成になっているか、瞬時に把握することができます。したがって、僕は序文よりはむしろ、目次を重視します。本書の目次は羊土社さんのホームページに掲載されています。
疼痛の診断とアセスメントから、鎮痛薬の基本的な考え方、個人的にも気になる副作用への対処法やスイッチング、また各薬剤は各論の形式で整理されており、読み進めやすい構成だなと感じました。「配慮を要する患者に対する注意」に関しても独立の章を設けるなど、内容の網羅性についても十分でしょう。率直にいって、優れた目次構成だなと思います。本書のように、きわめて狭い領域を扱う書籍は、各章における内容の重複を避けるために、取り上げるテーマを多面的な視座で紹介する必要があり、書籍全体の構成を組み上げる難易度は決して低くないのです。
【レイアウトや引用文献、紙面構成など】
各章、図表が多用されており、また「point」や「memo」といった囲み記事で重要事項が整理されており、非常に見やすいレイアウトとなっています。薬剤各論ではもう少し最新の文献を紹介してほしいかな……という印象も受けますが、基本的な知識を整理するうえでは十分でしょう。共著で執筆されている書籍ではありますが、全体の統一性にも大きな違和感はありません。文章も読みやすく、初学者でもストレスなく読み進められると思います。また、狭い領域を扱う書籍でありながら、各章で内容の重複などもなく、書籍の企画、構成の段階から編集に至るまで丁寧に作られている印象を受けます。
【職場に常備しておきたい1冊】
本書は、その見やすい紙面構成に、実践的な内容を網羅しており、現場で必要に応じて参照するマニュアルのような使い方もできそうです。通読したら、いつでも参照できるよう、職場に常備したい1冊だと感じました。
※本記事は筆者の個人的な書評であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に訂正いたします。