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思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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ドーナツとエビデンス

〔何もないという何かが存在する場所〕

ドーナツ、ドーナッツ。どちらでも良いのですが、僕はドーナッツと呼びますかね。ウィキペディアではドーナツと言う項目で掲載されているようです。[1] 僕が説明するまでもなく小麦粉に砂糖やバターなんかを混ぜた生地を油で揚げたものです。いろいろな形があると思いますが、ドーナツと言うとまず思い浮かぶのが真ん中に穴が開いた丸いドーナツではないでしょうか。(図)

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(図)典型的なドーナツ(ウィキペディアより)

ドーナツの真ん中に開いた穴と言うのは、周りのドーナツ生地が無ければ存在しません。この穴は周りの生地があるからこそ、穴として存在するわけです。なんだか不思議ですねぇ。何もないという何かが存在するということがドーナツには起こっているんですね。

〔エビデンスが示すのは「答え」じゃない何か〕 

論文を読んでいると多くの人が気付くと思います。結果に有意な差がつかなかったり、有意な差がついたとしても、実効性としては限定的であったり、批判的吟味をするほど、その効果は怪しくなり、多くの研究で示されている効果なんてものはほとんどよく分からないということになっています。つまり一つのエビデンスから得られるものは、自身の疑問に対する「答え」には程遠いい、というか、むしろよく分からない。という事は多々あると思います。エビデンスが示すのは「答え」じゃない何か、と言うわけなんですが、一つのエビデンスだけを眺めても、「答え」じゃない何かの全貌は見えてこないんです。

〔エビデンスをフォローし続けることはドーナツを作ること〕

一つの臨床課題について、一つのエビデンスではなく、様々なエビデンスを吟味し、さらに付け加えられてゆくエビデンスをフォローし続ける事、つまりそれは臨床課題に対する「答え」じゃない何かをたくさん集めて体系化して行く作業に他なりません。エビデンスとエビデンスがつながっていくと、そこになにがしかの“生地”ができます。さらに時系列でエビデンスをフォローしながら、その“生地”を円形にまとめ上げ、ある程度形が整ったら揚げてみましょう。エビデンスドーナツが出来上がるわけです。さて、「答え」じゃない何かの生地、つまりエビデンスドーナツの生地の真ん中に、ぽつりと開いた穴が出現しました。この穴から垣間見える世界はどんな感じでしょうか。「答え」じゃない何かに囲まれた、何もないという何かが存在する場所。臨床課題に対する答えの手がかりは、この穴からのぞく世界にあるのではないでしょうか。 

〔「薬局」×「薬剤師のジャーナルクラブ」〕

エビデンスを体系的に知ることは、臨床行動を明確にしていくようなイメージがあります。しかし、それはマニュアル化というような画一的な行動指針を規定してしまう恐れもはらんでいます。実臨床は意外にも複雑怪奇です。マニュアル通りにうまくいくものではありません。答えが無いからこそ、答えじゃないものをしっかり知っておく必要があります。答えじゃないものを知り尽くせば、残りが答えらしきものになるのではないか、僕はそんなふうに思います。

さて、南山堂さんの月刊誌「薬局」1月号は“Evidence Update 2016”です。最新の薬物治療のエビデンスを付加的に利用する!まさにドーナツ作りです。例えが分かりにくいですかねぇ。大変申し訳ないです。

 

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僕も糖尿病治療薬、脂質異常症治療薬のエビデンスアップデートについて執筆させていただきました。

今回の特集では、最新エビデンスのアップデート以外に、「薬剤師の新たな取り組み」として僕たちの薬剤師のジャーナルクラブ(JJCLIP)について取り上げていただきました。薬剤師のジャーナルクラブとしては初の公式な論考です。特集を企画された名郷直樹先生のご尽力があって実現したものです。この場をお借りして感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

自分の施設で論文抄読会を開催してみたいけど、どう開催して良いかわからない、あるいは、抄読会にみんなを誘いたいけど、開催意義やどんなメリットがあるのかうまく説明できなくて困っている、そんな状況は多いかと思います。取り組み概要や、EBMスタイルでの学びがもたらすことなどについて、この論考が引用文献としてもご活用いただけるかと思います。

 

2015年も残すところあとわずかです。このブログのタイトルは東浩紀さんの

www.amazon.co.jp

存在論的、郵便的ジャック・デリダについて」に影響を受けています。哲学的思索と疫学的データをもとに医療について考えていこうというコンセプトのブログですが、いつの間にか僕のメインブログとなりつつあります。来年も、様々なことを模索していきたいと思います。

本年も、大変お世話になりました。

来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

〔参考〕

[1] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%84