[哲学]×[医療]で見えてくるもの~開かれた医療とその敵~
地域医療ジャーナルでの僕の連載「開かれた医療とその敵」が完結しました。この論考は、医療情報に対する僕の思想的立場をまとめたものです。連載タイトルにあるように、その多くはカール・ライムント・ポパーの批判的合理主義の考え方に基づいています。
医学、薬学情報の考え方に関して、その基本的な思考原理を僕なりにまとめた論考となっています。
[カール・ライムント・ポパーの思想に触れる]
ポパーの思想は科学哲学から社会哲学や政治哲学と多岐にわたりますが、その根幹にあるのが反証主義という考え方です。ポパーの思想に触れるにあたり、僕のおすすめ書籍をあげておきます。
科学哲学への招待(ちくま学芸文庫)
ポパーの反証主義は科学哲学全体の流れの中でとらえると非常にわかりやすいです。科学哲学の入門書として最高の1冊だと思います。
ポパーの思想を学ぶには最適の入門書。科学哲学から社会哲学まで網羅しており、いきなり原著を読むのは抵抗がある、という方にお勧めです。
開かれた社会とその敵(未来社)
ポパーの主著の一つ。連載論考のタイトルにもなった本で、論考にも多数引用しています。おもに社会、政治哲学に関するポパーの思想に触れることができます。
客観的知識-進化論的アプローチ(木鐸社)
連載論考では最終節で引用しています。ポパーの三世界論は医学情報を取り扱うにあたり、とても重要な示唆を得られます。ポパー後期の著書のため反証主義に関する論考も洗練されています。ボリュームはありますがポパーファン必読の1冊かもしれません。
この他にも重要な主著には「推測と反駁-科学的知識の発展」があります。批判的合理主義のバイブルと言えるような本かもしれません。
[哲学×医療で見えてくるもの]
哲学というと何やら難しいイメージを抱いてしまうかもしれませんが、つまりは思考の原理を提供するものです。この世界に当たり前に存在すると思われているようなものを突き詰めて考えたとき、そこに浮き上がる違和感に対して、どう近接してくか、その思考の原理を作り上げていく営みが哲学と言えるかもしれません。
例えば、常識的な考えによれば、薬の「効果」は当たり前のように”ある”と信じていますが、ではその「効果」って改めて考えてみると、手に乗せて、観察できるようなものではありませんし、「効果」なるものが実際にどこかに存在するわけではありませんよね。そもそも”ある”って何があるんでしょうか。それはサッカーボールのような仕方で”ある”のではなく、どちらかといえば幽霊のような仕方で”ある”とは言えないでしょうか。
哲学はそうした課題に対して、どうすれば幽霊的なものを上手く捉えることができるか、その考え方の道筋を明らかにしていく学問です。見る人の観点によるものなのか、あるいは物理的に還元できるものなのか、それとも、もっと別の仕方で捉えるべきものなのか。結果的にその存在は科学的な検証を経てから客観的知識として確定していくものなのかもしれませんけど、その前提に「哲学」があるんです。
だから「哲学」×「医療」という掛け算は、科学としての医療と、思考の原理としての医療をかけ合わせること、つまり常識にとらわれずより多面的な医療に対する視点を獲得する方法の一つと言えるでしょう。
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