思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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【書籍】Rp.+ レシピプラス 2019年秋号:型を知り 型を破る ワクチン

 南山堂さんのレシピプラス Vol.18 No.4(秋号)は『型を知り 型を破る ワクチン』と題したワクチン特集です!インフルエンザ流行シーズンを控え、ワクチンに関するテーマは何かと話題にのぼる時期かもしれません。

レシピプラス Vol.18 No.4 型を知り 型を破る ワクチン

 基礎知識からケースで学べる実践的知識まで網羅しており、体系的にワクチンを学ぶ機会が少ない中、貴重な1冊となっています。連載中の『臨床疑問のゆくえ』もインフルエンザワクチンに関する論文抄読会をもとに紙面展開しましたよっ。

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 ワクチンの効果に関してインターネットを中心に様々な議論がなされるとこも多々ありますが、ワクチンの有効性はわりに明確で、慢性疾患に対する薬物治療の効果とは対称的です。ワクチンの効果がなぜ明確なのかは、疾病成立にかかわる因果関係にあります。

 例えば、心血管疾患の成立には、血圧が高いこと、脂質が高いこと、血糖値が高いこと、睡眠時間が少ないこと、心理的ストレスの影響、気候などの環境要因、遺伝的要因など様々な原因が複雑に関わっています。一つの原因が存在しなくとも心血管疾患は発症しえますけど、感染症の場合は事情が異なります。

 一般的に感染症は、感染経路宿主の状態感染源の3つの原因がそろった時に発症します。心血管疾患の発生機序と異なるのは、疾患の成立に、必ずこの3つの原因が必要なことです。そしてワクチンはこの3つの原因のうち「宿主の状態」に直接働きかけます。したがって、ワクチンを接種すれば、感染症の発症は高い確率で防げることになります。もちろん、抗体価の上昇度合いなど、個別には蓋然性の問題は付きまといますけれども。

 ただ、このことは降圧薬が「血圧が高い状態」という心血管疾患の原因をブロックすることとまるで異なります。心血管疾患は「血圧が高い状態」という原因がなくとも発症しえますが、感染症は「宿主の状態」という原因がなければ発症しないからです。

 ではHPVワクチンはどうでしょうか。HPVワクチンはHPVの感染を防ぎ、子宮頸がんの発症を予防するためのワクチンです。HPV感染を防ぐことはできても、子宮頸がんの発症はどうなの?という疑問もあることでしょう。これについては日経DIOコラムに書きましたので、ぜひ読んでいただければと思います。

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