思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

カウンター カウンター

ヘルスリテラシーとは何か-その定義と健康への影響について-

[ヘルスリテラシーとは]

リテラシーとは、そもそも読み書き能力のことを示す言葉であったが、近年では、“自分に必要な情報を選び、活用する能力”という意味合いが強くなっている。健康情報に関するリテラシーは、一般にヘルスリテラシーと呼ばれているが、その定義は専門家によって若干異なっているのが現状である。

ヘルスリテラシーという言葉は1970年代に初めて導入されたと言われている[1]。2012年にシステマティックレビュー[2]が報告されており、ヘルスリテラシーに関して12の概念と17種類の定義が挙げられた。

定義についてはhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3292515/table/T1/にまとめられている。

WHOでは「"The cognitive and social skills which determine the motivation and ability of individuals to gain access to understand and use information in ways which promote and maintain good health"」と定義されており[3]、すなわち「健康を高めたり、維持するのに必要な情報にアクセスし、理解し、利用していくための、個人の意欲や能力を決定する、認知・社会的なスキル」ということになる。 

様々な定義が存在するヘルスリテラシーではあるが、共通している内容は大きく以下の2つである。[4]

①健康情報にアクセスし、理解し、活用する能力

②それを可能にするために、組織や委員会がそれをサポートする能力

また、このシステマティックレビューでは、ヘルスリテラシー概念の統合モデルを策定している。(図1)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3292515/figure/F1/

f:id:syuichiao:20170628162621j:plain

(図1)ヘルスリテラシーコンセプトモデル(BMC Public Health. 2012 Jan 25;12:80)

 

モデルの中核となるのは、健康関連情報にアクセスし、理解し、評価し、適用する4つのプロセスに関連する能力である。この4つのプロセスには以下のコンピテンシーが必要と言われている。

1)アクセス:健康情報を探し求め、入手する能力

2)理解とは、アクセスされた健康情報を理解する能力

3)評価とはアクセスされた健康情報を解釈し、フィルタリングし、判断し、評価する能力

4)適用とは、情報を伝達して使用して、健康を維持し、改善する決定を下す能力

この4つのコンピテンシーを健康管理、疾病予防、健康の増進という3つの健康領域に関連付け、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3292515/table/T4/ のようなヘルスリテラシーマトリックス表が提唱されている。

 

[ヘルスリテラシーの3つのレベル]

Nutbeamによれば、リテラシーは以下の3つにレベル分けされている。[5]

1)Basic/functional literacy(機能的リテラシー

読み書きの基礎技術

2)Communicative/interactive literacy(相互作用的リテラシー

さまざまなコミュニケーションから意味を導き出したり、変化する状況に新しい情報を適用するための、社会スキル及び高度な認知能力や識字能力

3)Critical literacy(批判的リテラシー

情報を批判的に分析し、その情報を日常の出来事や状況に対してより詳細にコントロールするために活用できる高度な認知スキル

Nutbeamは、この機能的相互作用的批判的という3つのレベル分類をヘルスリテラシーに接続することによって、そのコンセプトをさらに洗練させている。

機能的ヘルスリテラシー健康リスクと医療サービス利用に関する事実情報の伝達能力

相互作用的ヘルスリテラシー社会的相互作用を通じて変化する状況に新しい情報を適用するために必要な、より高度なスキル

批判的ヘルスリテラシー情報を効果的に分析し、それを使用して健康状態をより詳細に制御する能力。

 

機能的ヘルスリテラシーが低いことは健康関連アウトカムに影響を与える可能性が高いと言えるが、相互作用的ヘルスリテラシーや批判的リテラシーではどうであろうか。

日本における地域社会ベースの全国調査の横断データから相互作用的/批判的ヘルスリテラシーと、健康に与える影響を検討した報告[6]によると、相互作用的/批判的ヘルスリテラシーが高い回答者では自己報告による健康状態が良好であると報告した人が多いという結果になっている。 (オッズ比2.75[95%信頼区間1.93~3.90])また、低学歴の回答者は、相互作用的/批判的ヘルスリテラシーが低い可能性が示されている。

そもそも日本は国際的にみてもヘルスリテラシーが低いことが指摘されている。[7][8] 日本は高等教育を受けることができる人の割合が多いように思われるが、そうした国でさえ健康促進においてはヘルスリテラシーが重要な役割を果たすかもしれない。[9]

 

[e ヘルスリテラシーについて]

eヘルスリテラシーの概念は「インターネットから健康情報を探し、見つけ、理解し、評価する能力と健康問題の解決や処理にその知識を適用できる能力のことである」と定義されている。[10]

つまり、インターネット上で健康情報を検索し、その内容を評価し、取得した健康情報を自分の健康問題解決に向けて活用する能力と言える。その中心には、6つの中核的なスキル(リテラシー)が設定されている

①習慣的リテラシー:読解力などに関連した慣習的リテラシーと基本的な計算力

②ヘルスリテラシー:健康に関する適切な意思決定を行うために必要な健康情報やサービスを取得し,評価して理解するためのスキル

情報リテラシー:多くの情報源から情報を適切に検索し、活用するためのスキル

科学リテラシー:情報が科学的に立証されているかを判断するために必要なスキル

メディアリテラシー:各メディアが発信している情報の質を評価するためのスキル

コンピュータリテラシー:インターネットを用いる際に使用する機器を適切に扱うためのスキル

この中核スキルは大きく、分析的スキル(習慣的、メディア、情報)[11]と特異的スキル(コンピュータ、科学、健康)[12]に分けられる。

これら6つの要素をユリの花にたとえて、eヘルスリテラシーLily モデルと言う概念が提唱されている。(図2)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1550701/figure/figure1/

 

f:id:syuichiao:20170628162831j:plain

(図2)eヘルスリテラシーLily モデル (J Med Internet Res. 2006 Jun 16;8(2):e9.)

 

インターネットが普及している現代社会においてeヘルスリテラシーはますます重要となっていくように思われるが、2011年時点のシステマティックレビュー[13]では、大学生におけるeヘルスリテラシーは決して高くないと報告されている。主なレビュー結果は以下のとおりである。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3278088/table/table3/

 

[ヘルスリテラシーが低い集団の特徴とその臨床的影響]

学歴と健康関連アウトカムが関連していることは知られている。実際、学歴と心血管疾患の生涯リスクには負の相関がみられると報告されている。[14]

米国における高齢者での低ヘルスリテラシーの存在割合を推定するために行われた、7334人を対象としたアンケート調査が報告されている。[15]

この研究によれば、健康状態が良くない集団では23%、健康状態が良好な集団でも16%に低ヘルスリテラシーが存在した。健康リテラシーが低い集団の特徴として、男性、高齢、より多くの合併症、低学歴が挙げられる。また、健康リテラシーの低さは、患者満足度の低下、予防サービスコンプライアンスの低下、医療利用の高まり、および医療費支出の増加と関連していた。健康状態が良くない高齢者において、低ヘルスリテラシーは一般的であり、健康関連アウトカムに影響しうると結論されている。

低ヘルスリテラシーは入院などの健康関連アウトカムの悪化や、乳がん検診、インフルエンザワクチン接種などのヘルスケアサービス受給の低下に関連している。特に高齢者では死亡リスクの増加に関連する可能性も示唆されている。[16]

日本における地域在住高齢者517名(平均年齢73.2±6.3歳、女性410名)を対象とした横断調査[17]では、高いヘルスリテラシーは非フレイル(高齢者の虚弱)と独立して関連していることが示された(オッズ比1.64[95%信頼区間1.03~2.61])

JA福島厚生連 坂下厚生総合病院、高田厚生病院で、健康管理に参加した日本人1817人(男性783人、女性1036人)を対象とした横断調査[18]では、高いヘルスリテラシー保有者では、健康的な生活習慣と正の相関があった (オッズ比2.08[95%信頼区間1.33~3.23]]また、メタボリックシンドロームの有病割合と逆相関した(オッズ比0.67[95%信頼区間0.48~0.95])

心不全患者ではヘルスリテラシーが低いと死亡リスクが高いことが複数の研究で示されている。[19][20][21]また高齢者においてもヘルスリテラシー低値が死亡リスクに関連するとした報告が多い。[22][23][24]

f:id:syuichiao:20170628163031j:plain

(図3)心不全患者におけるヘルスリテラシーと生存(JAMA. 2011 Apr 27; 305(16): 1695–1701)

f:id:syuichiao:20170628163051j:plain

(図4)高齢者におけるヘルスリテラシーと生存(J Gen Intern Med. 2006 Aug; 21(8): 806–812.)

 

[参考文献]

[1] Simonds SK. Health education as social policy. Health Education Monograph. 1974;2:1–25.

[2] BMC Public Health. 2012 Jan 25;12:80. PMID: 22276600

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22276600

[3] Nutbeam D. Health Promotion Glossary. Health Promot Int. 1998;13:349–364. doi: 10.1093/heapro/13.4.349

[4] 中山 和弘.日本健康教育学会誌Vol. 22 (2014) No. 1. doi.org/10.11260/kenkokyoiku.22.76

[5] Health Promot Int (2000) 15 (3): 259-267.

DOI: https://doi.org/10.1093/heapro/15.3.259

[6] Health Promot Int. 2015 Sep;30(3):505-13. PMID: 24131729

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24131729

[7] Patient Educ Couns. 2009 Jun;75(3):411-7. PMID: 19403259

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19403259

[8] BMC Public Health. 2015 May 23;15:505. PMID: 26001385

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26001385

[9] Patient Educ Couns. 2015 May;98(5):660-8. PMID: 25739344

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25739344

[10] J Med Internet Res. 2006 Jun 16;8(2):e9. PMID: 16867972

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16867972

「The concept of eHealth literacy is introduced and defined as the ability to seek, find, understand, and appraise health information from electronic sources and apply the knowledge gained to addressing or solving a health problem.」

[11] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1550701/figure/figure2/

[12] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1550701/figure/figure3/

[13] J Med Internet Res. 2011 Dec 1;13(4):e102. PMID: 22155629

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22155629

[14] JAMA Intern Med. 2017 Jun 12. [Epub ahead of print] PMID: 28604921

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28604921

[15] Geriatr Nurs. 2017 Jan 11 [Epub ahead of print] PMID: 28089217

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28089217

[16] Ann Intern Med. 2011 Jul 19;155(2):97-107. PMID: 21768583

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21768583

[17] Geriatr Gerontol Int. 2017 May;17(5):804-809. PMID: 27381868

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27381868

[18] Diabetol Metab Syndr. 2016 Mar 24;8:30. PMID: 27014371

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27014371

[19] JAMA. 2011 Apr 27;305(16):1695-701. PMID: 21521851

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21521851

[20] J Am Heart Assoc. 2015 Apr 29;4(5). PMID: 25926328

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25926328

[21] J Am Heart Assoc. 2015 Apr 29;4(5). PMID: 25926328

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25926328

[22] J Gen Intern Med. 2006 Aug;21(8):806-12 PMID: 16881938

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16881938

[23] J Gen Intern Med. 2008 Jun;23(6):723-6. PMID: 18330654

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18330654

[24] BMJ. 2012 Mar 15;344:e1602. PMID: 22422872

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22422872