思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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”カッコいい薬剤師からのラストメッセージ”

人の魅力とは何だろうか。僕は最近、そんなことを考えている。学歴、職歴、肩書…名刺にならんだその文字は、その人の歩んできた道のりを、その人の人生そのものを記述しているようにも思える。ただ、名刺に記述された肩書きなど見なくても、人の魅力は肌で感じることができる。それもたった一度の出会いだけで。

僕が魅了された方たちとの出会いを思い返してみても、その魅力はほぼ一瞬にして感じ取っていたように思う。人の魅力とは言葉では記述できない何か、ありそうでなさそうで、確かにあるもの。いうなれば存在もどきだ。その人から発せられる声のトーンか、話している内容なのか、話し方なのか。いずれにせよ、明確に人の魅力を定義づけることは難しい。それは肌で感じるものとしか言いようがない。

魅力ある人との出会いで、人生が変わることは多々ある。僕自身も経験がある。そういえば、鹿児島で行われた日薬の学術大会の前夜、しゃぶしゃぶをつつきながら、僕の兄貴分、雄一郎さんが熱く語っていた。

「人って、徐々に変わっていくもんだと思うだろ?実はそうじゃないんだよ、人は一瞬で変わってるんだ。」

おお、確かに。確かにそうだ。それを僕は学術大会分科会の講演で行われた質疑応答で無意識にパクって、まるで僕の言葉のように熱く語っていたように思う。(本当にすみませんでした…。)

魅力ある人は肌で一瞬にして感じることができる。これが一般化できるかどうかは議論の余地があるが、少なくとも僕にとってはそういう事なのだ。そして、その人から学ぶことで、人は一瞬にして変わっている。学ばなければ、もっとたくさんのことを学ばなければいけなかった人がいた。

「二代目薬剤師が薬局を滅ぼす」

カッコいい薬剤師からのラストメッセージ 二代目薬剤師が薬局を滅ぼす (日経DI 薬剤師「心得」帳)

カッコいい薬剤師からのラストメッセージ 二代目薬剤師が薬局を滅ぼす (日経DI 薬剤師「心得」帳)

 

 

この本を読んだ。著者の近藤剛弘先生を知らずに、この本のタイトルを見たら、どう思うのだろうか。なかなか衝撃的なタイトルだと思う。僕が近藤先生に初めてお会いしたのは、とある非公式の会だった。日経ドラックインフォメーションでおなじみ、かっこいい薬剤師として、そのお名前は存じ上げていたが、実際にお会いするのはこの時が初めてだった。

真っ黒なコートに、おしゃれなマフラーを着用した近藤先生は、さっそうと名刺を取り出し、僕に渡してくれた。この方が、あの、うわさのかっこいい薬剤師か、それにしても、かっこよすぎだなあ、と圧倒されながら、近藤先生は僕の真向かいに座られた。

近藤先生は、その容姿からは想像もつかないような、丁寧かつ、穏やかなトーンの話し方で、熱く武勇伝を、それも面白おかしく語っておられた。人の魅力、そう魅力の固まりのような方だと、僕はその時、一瞬で感じたのを覚えている。帰り際、ビールを飲みすぎ、ふらふらに酔った僕を、近藤先生は終始にこやかなお顔で、その優しいお声で、駅までの道のりを丁寧に教えてくださった。この人から多くのことを学ばなければいけない、僕は直観的にそう感じたのを覚えている。

今年7月に、近藤先生からメールをいただいた。僕も薬剤師のためのEBMという取り組みを続けさせていただいているのだが、近藤先生は僕の日経DIコラム「症例から学ぶ薬剤師のEBM」や僕のブログをご自身の講演で紹介してくださっていたのだ。わざわざ、その承諾をとメールをいただいた。そしてまた一緒にお酒を飲みましょうと。それが近藤先生から頂いた最後のメッセージとなってしまった。

近藤先生はこの著作の中で、師匠について述べられている。師と呼べる人を見つけ、師から学び、そのうえで、自らで模索を続け、そして、自ら師となれと。

何のために薬剤師になったのだろうか。その答えを明確に得られている人はそれほど多くないように思える。もちろん、そんなことはないという批判もあるだろう。しかし、少なくとも僕はそうだったし、僕の周りにも、薬剤師としていったい何ができるだろうかと悩んでいた人は多かった。何を学べば良いのか、どう学べばよいのか、その答えは雲をつかむようで…。いつしか、多忙な日常に頽落し、ルーチンワークをこなしてお金を稼ぐことだけが日々の目標となっていく。保険薬局勤務時代、僕もそうした一人だった。人事異動で、薬剤師が変わっても、基本的な業務に変化は起きない。僕が今、ここにいる意味は何だろうか。人が変わってもきちんと仕事が回るというのは大事なことかもしれない、ただそれだけでは、なにかやりきれない思いもあったりするのが人間だろう。

僕がここにいる意味。それを僕は師匠から学んだ。師からEBMを学び、僕は薬剤師としての存在意味を見出したのだ。僕は師と呼べる人を見つけることができた。そして人はそのような師との出会いで、一瞬で変わることができる。近藤先生は、そのことを、身をもって知っていたのかもしれない。近藤先生が一番伝えたかったことは、このようなことではなかったのだろうか。どんな薬剤師像を描けば良いのか分からない、そんな方へ、いやすべての薬剤師に、本書を読んでほしい。人として魅力ある薬剤師になるためにはどうすればよいのか、その答えの手掛かりとなるだろう。

そんなかっこいい薬剤師、近藤先生は今年9月、49歳の若さで急逝されてしまった。近藤先生の想いを僕は次世代の薬剤師に伝えていくことができるだろうか。近藤先生からのラストメッセージ、もう一度じっくり読み返し、薬剤“師”となれるよう模索を続けたいと思う。

 

近藤先生、今はただ安らかにお休みください。