思想的、疫学的、医療について

医療×哲学 常識に依拠せず多面的な視点からとらえ直す薬剤師の医療

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年頭所感〜時間の積層性を意識して~

吉浦康裕さん監督、脚本、制作の『ペイル・コクーン』という2005年の短編アニメーション映画を見た。

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歴史の連続性が途絶えるほどの未来で、過去の世界は僕たち人間にとって、いったいどのような意味を持つだろう。過去を知ることは、この現実の不幸を知ることかもしれない。それにも関わらず、過去の世界を知る必要があるのだろうか。そうだとしたら、なぜ人は過去を知らなければならないのだろうか。

時の“流れ”は早いとは良く聞く言葉だ。「今年もあっという間に終わってしまう…」とは年末に僕が良くつぶやく言葉である。だがしかし、時は本当に“流れる”のだろうか。時の流れというのはある種のメタファーであり、実際にその“流れ”なるものを見ることはできないであろう。砂時計の砂が流れ落ちるのも、川面に浮かぶ葉が流れていく様も、つまり、流れという現象には一定の時間を要するが故、時間の経過が「流れ」というメタファーで記述されているに過ぎない。 

「時は流れない、それは積み重なる」これは1991年サントリー・クレストのテレビCMのコピーであるが、時間の積層性という観点を、野家啓一さんは「物語の哲学」で以下のように述べている。 

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『より以前の出来事はそれ以後の出来事の出現によって「流れ去る」わけではなく、いわば後者は前者の上に「積み重なって」いるのである (物語の哲学p273)』

以前の出来事、つまり過去は、以後の出来事、そう現在と未来の前提になっている。過去は僕たちの現在、そして未来に影響を及ぼしていく。当たり前のように思うかもしれないが、これは時間が決して“流れ過ぎていかない”ことの傍証であろう。

『現在の出来事には膨大な過去が前提されており、無数の因果的あるいは志向的な関係が負荷されている。あるいは、過去の出来事は知覚的現在の下層に活性化可能な状態で「沈殿」しているのだといっても良い。しかし、その連続性は「流れ」の連続性ではなく、「積み重なり」の連続性なのであり、むしろ「非連続の連続」というべきものである。(物語の哲学p275 )』

非連続が連続している、それが「時」の正体である。非連続と非連続の間隙に因果性、志向性を見出せなくなってしまった世界において、きっと人は過去に希望を抱くのかもしれない。

今この瞬間が過去に変わっていくとき、それは積層性を帯びている。何気ない日常はこうして非連続として連続的に積み重なっていくのだろう。“時積み重なりが、「今」そして「これから」にどのような影響を及ぼすかについて思考せよ”、と問い続けること。今という瞬間が積み重なり、そこから因果性、志向性という仕方で「これから」に繋がるからこそ、時間の積層性を意識しながら前に進みたい。

本年もよろしくお願い申し上げます。

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